コーチングに限らず、カウンセリングなど人をサポートする際、相手の話を聞くという行為はとても大切なことになります。
ただし、相手の話を聞くという単純な作業は、自分が望んでいる情報をインプットする場合を除けば、意外に苦痛であることの方が多いのではないでしょうか。
その理由の1つは、私たちの脳の情報処理のスピードにあります。
まず、人が1分間に話す単語は、おおよそ100~175の単語だと言われています。
また、人が1分間に聞きとれる単語の数は、おおよそ600~800の単語だといわれています。
人が話すスピードよりも、人の話しを聞いて情報を処理する能力の方が遥かに上回っています。
そのため、話の一部分だけを聞くだけで、一応だいたいは聞きとることができてしまいます。そのため、人の話を聞きながら、すぐにほかのことに気をとられてしまい、聞く集中力が失せていってしまいます。
これを改善するのが、意識的に聞くこと、すなわち傾聴になります。
この傾聴を意図して行うことで、以下のようなことが可能になります。
- 相手から得られる情報の増加
- 相手を理解すること
- 問題・課題の解決
- 相手が感じていることに対する共感
- サポートを示すことなどが可能になります。
聞き手は、相手が話すのと同じくらい、もしくはそれ以上のエネルギーが必要です。
そのエネルギーをかける価値や根拠、そして効果があるからこそ、昔から傾聴が行われてきました。
ただし、人の話を聞くにはどうしてもトレーニングは必要になります。
1、コーチング・カンバセーションとは
そもそもコーチングは、相手の話を聞くことが99%の割合を占めます。
コーチング・カンバセーション(coaching conversation)は、コーチ(指導者)とクライアント(受講者)の間で行われる対話のことを指します。
コーチング・カンバセーションの目的は、クライアントの自己認識を深め、目標達成や問題解決のためのアクションプランを立てる手助けをすることです。
コーチは、クライアントが自由に考え発想し、アイディアが出やすい状態に導くために、聞くことに重点を置いたコミュニケーションを行います。
このプロセスをコーチング・カンバセーションといいます。
「聞くこと」、ただそれだけで大きな力を与えることができます。
2、話を聴いてもらえない理由とは
コミュニケーションにおいて、話す能力ばかりに注目されがちで、聞く能力が見過ごされがちです。
聞き手の役割を担うことで、初めて真のコミュニケーションが成立しますが、聞くことに価値を見出す人は少なく、聞いてほしいという欲求が先行しすぎています。
家庭、職場、学校、病院など、私たちのことを受け止めてくれている人はいるでしょうか?
そうです。私たちは、「聞かれていない」し、「聞いていない」のです。
自分が話をしている途中で口をはさまれたりします、コメントされたりもします、
自分の話を、否定や批判を一切されずに、最初から終わりまで、何時間でも聞いてもらったという経験がある人は稀です。
誰かが話すことを最初から終わりまで聞いたという経験のある人もあまりいないでしょう。
忙しい環境では、個人の感情や問題に耳を傾けることが後回しにされがちです。調査によれば、78%のマネジャーは聞く能力が重要だと考えていますが、実際にトレーニングを受けているのはわずか2%です。
聞く能力は後天的に発達するものであり、トレーニングが必要です。
聞く能力を向上させない限り、「聞いているつもり」の状態から抜け出せません。
この「聞かれていない」「聞いていない」という状態が、私たちが抱えるコミュニケーションの問題の大部分を占めています。
私たちは、聞く能力を向上させるためのトレーニングに取り組むことで、コミュニケーションの問題を解決することができるでしょう。
話を聞いてくれと言うとあなたは忠告をはじめる
私はそんなことを頼んでいない
話を聞いてくれと言うとそんなふうに考えるものじゃないとあなたは言う
あなたは私の心を踏みにじる
話を聞いてくれと言うと私の代わりに問題を解決してくれようとする
私が求めているのはそんなことではない
聞いてください!私が求めているのはそれだけど
何も言わなくていい、何もしてくれなくていい
ただ私の話を聞くだけでいい
忠告など安いものだ
新聞を買うお金さえあればいろんな有名人が人生相談に答えている
それくらいは自分でできる
たしかに少し弱気になり、迷ってはいるがそれくらいなら自分でできる
だから、ただ私の話を聞いてください
そして、もしあなたが話したいのなら自分の順番を待っていてください
そうしたら、私もあなたの話を聞きましょう
-グレン・V・エカレン著『豊かな人間関係を築く47のステップ』ディスカヴァー刊より-
3、人は、見たいように見て、聞きたいように聞く
私たちは、耳ではなく、脳で聞いています。
脳内では、ただ単にやってくる情報を受けとっているのではなく、受けとると決めた情報だけを受け入れるという傾向があります。
つまり、ほしい情報は率先してとりにいきますが、興味のないこと、共感できないことは、遮断したりするということなのです。
ここに、「聞く」ことの難しさ、「聞かせること」の難しさがあります。
聞くこと、聞かせることとは、関係をつくることであり、互いの中に目標、目的など共有できる何かを見出し、少しずつ合意していくことでもあるわけです。
実は、「聞く」ことを妨げている最も重要な要因は、そもそも私たち自身の知覚、物事の認識の仕方にあります。
- 見たいように見て、聞きたいように聞く
- もともと信じてもいないものは、見ようともしない
- 見たり聞いたりしたものに、例外なく自分の解釈によって色や形が変えられる
これらが私たちの脳内で無意識に行わなれている認知なのです。
事実よりも、自分のルールや自分都合の解釈のほうが優先されているのです。
4、自分の発する言葉で「気づき」を得るオートクライン現象
聞くことがクライアントや他者に対するサポートとなる理由を理解することは、コーチングにおいて重要です。
私たちは話すことで、自分が何を考えているかを自覚できるため、聞いてくれる人が必要です。
コーチは、クライアントが自分の考えを明らかにするために、その役割を担います。
クライアントも部下も上司も、聞いてもらえることを求めています。
その理由のひとつは、私たちは、口に出すことによってはじめて自分が内側で思っていたことを知ることができるからです。
会話を行うことで、自分が何を思っているかを知る目的が含まれており、相手に話しかけながら、自分の声やアイディアを聞いていることになります。
この現象は、細胞レベルでも観察されています。
細胞間で情報伝達が行われる過程をパラクラインと呼びますが、細胞は自分で発信した情報を自分で受信する現象があり、これをオートクラインと呼びます。
パラクラインを会話に置き換えてみますと、情報を相手に伝達するという行為になります。
オートクライン会話に置き換えてみますと、自分が相手に対して発する言葉によって実は自分自身が「自分はこんなことを考えていたんだ」、「私がやりたいことはコレだ!」などと新たに発見する行為のことです。
聞くことが効果的である理由の一つなのです。
このように、聞くことが自己理解やアイディアの具現化に重要であることから、コーチングでは聞くことに重点が置かれています。
コーチがクライアントや他者の話を真摯に聞くことで、彼らの内側にある考えやアイディアを引き出し、サポートすることができるのです。
5、オートクライン現象を引き起こす聞き方
私たちは、話す相手がいなければ、自分の思っていることにも気づけません。
アイディアにも気づけません。
これが、わたしたちが話す理由のひとつです。
当然、クライアントも部下も本人は気がついてないかもしれませんが、オートクラインを求めています。
聞くということは、部下やクライアントが、自分で自分の頭を整理したりアイディアを引き出したりするのを手伝おうというスタンスに立つことができます。
そして、それはコーチにとって最も大切なあり方であり、コーチングとはオートクラインを目的としたコミュニケーションといっても過言ではありません。
① 聞きとるためのアプローチ
コーチとして、クライアントの話を聞くときのあり方について、いくつかのポイントを挙げてみます。
- エゴのない状態、ニュートラルな状態でいる
- あなた自身の心が調和のとれた状態であること
- あなた自身の心積もりは脇によけておく
- 判断、アドバイスを控える
- あなたの頭の中にある筋書き最小限にする
- 深く聞きとることに意識を集中する
- 自分自身に答えの用意のない質問をする
- 自分の用意した答えを押しつけないように注意する
②「聞く」ことを中心としたコミュニケーションのポイント
「聞く」ことを中心とした、コーチとしてのコミュニケーションのポイントをありったけ挙げてみます。
- 話すよりも聞くことに時間を割く
- 相手の文章に割り込まない、結論を先取りしない
- 質問に質問で答えない
- 先入観に気づくこと。そして先入観をコントロールできるようになる
- 相手が話しているとき、別のことを考えたり相手の考えを先読みしたりしない
- 相手に話させる。会話を独占しない
- どう答えるかは相手が話し終えてから。相手が話している間に考えない
- フィードバックをする。話を頻繁にさえぎらない
- オープン・クエスチョンで質問する。そして自分の考えを要約して伝える
- 最後まで聞く。途中で口をはさまない
- タイミングよく相づちを打ったりうなずいたりする
- 視線を合わせる。エンジェルアイで見る
- 相手のノンバーバルな情報を受けとる
- 相手のことを受け止め、承認する
- 相手の肩をもったりはしない、公平な立場をとる
- 批判をしない、判断もしない
- コメントも忠告もしない、相手の同意を得てはじめて自分の考えを言う
- 沈黙を受け入れる
- 相手の言葉を反復する、オウム返しにする
- 聞いているというサインを送る
まとめ
本記事では、聞く力の重要性とその根拠をお伝えしてきました。
聞くことが他者に対するサポートになる理由は、相手に話しをすることで自分が何を考えているかを発見することができるからです。
この現象は細胞レベルでも観察されており、自分で発信した情報を自分で受信するオートクラインという現象が存在します。
意識的な傾聴の重要性を理解し、聞く力を向上させることで、相手の理解や問題解決、アイディアの発見などが可能になり、コーチングや他の人間関係においても効果的なサポートが実現できます。
こちらの記事もおすすめです↓