
催眠と聞くと、「相手をコントロールする技術」や「特別な能力が必要なもの」というイメージを持つかもしれません。しかし、エリクソン派の催眠療法は、そのようなものではありません。
ミルトン・エリクソンは、催眠を「人が本来持っている無意識の力を引き出し、自然な変化を促すもの」と考えました。彼は、「すべての人には、すでに解決策を見つける力が備わっている」と信じ、クライアントが自らの可能性に気づき、前向きに行動できるよう手助けしました。
例えば、曖昧、あやふやな言葉を意図して使用することで、クライアントにとって都合よく解釈させながら、心地よく受け入れやすくなる状態「催眠=トランス状態」に導き、自分にとって最適な解に導くことを目的にしたりするものです。
解決するのが難しいクライアントであっても、巧みな技術によって現実に適用できるようにしますから、ミルトンモデルを活用することで、相手の心に抵抗なく影響を与えてメッセージを届けることに繋がります。
エリクソンは言いました。
「あなたのリソースはすでにあなたの中に存在している。それを発見する手助けをするのが私の役割だ。」
そんなNLP心理学のミルトンモデルについてご紹介します。
ミルトン・エリクソンの催眠療法を初心者が学ぶためには、以下のスキルを身につけることが重要です。各スキルには簡単な説明を付けています。
1. ラポール形成と観察力
🔹 ラポール形成(信頼関係の構築)
クライアントが安心し、治療者に対して心を開ける関係性を築くスキル。
NLPでは、エリクソンがクライアントの治療にあたって、50%以上のエネルギーを使ったとされる大変重要なスキルと習いました。
クライアントからの信頼を得ることができる状態が構築できると、例えば、治療のために部屋に入ってエリクソンの目を見ただけで、問題が解決されていった、病気が改善されたということもあったようです。
みなさまもそのような体験をされたことがあるのではないでしょうか。
みなさまからが感じている、良いお医者さん、良い先生などという方もきっとそのようなメカニズムになっているかもしれませんね。それほどエリクソンが重要にしていたスキルになります。
ポイントはこんな感じです↓
・クライアントのペースに合わせる
・積極的な傾聴(クライアントの言葉や気持ちを尊重)
・言葉だけでなく、表情や声のトーンも意識する
関連するエリクソンの言葉:
「治療者の最初の仕事は、クライアントのペースに合わせることである。」
ラポールに関する詳細は、こちらの記事をご覧ください↓

🔹 観察力
クライアントの表情・姿勢・声のトーン・呼吸・無意識の反応などを注意深く観察し、催眠誘導や治療に活用する。
ポイントはこんな感じです↓
- どのような話題でリラックスするか観察
- クライアントの「微細な変化」に注目
- 無意識のサイン(ため息、まばたきの変化、姿勢の変化)を読む
関連するエリクソンの言葉:
「変化は小さな一歩から始まる。」
観察力に関する詳細は、こちらの記事をご覧ください↓

2. 催眠誘導のスキル
🔹 自然な催眠誘導
クライアントを催眠状態に導くための技術で、エリクソンは「自然なアプローチ」を好んだ。
ポイントはこんな感じです↓
- 直接的な命令ではなく、リラックスしやすい言葉を使う
- クライアントの注意を特定の感覚に向けさせる
- 深呼吸や「あなたはすでにリラックスし始めているかもしれませんね」といった間接的な誘導を使う
関連するエリクソンの言葉:
「あなたが変化を受け入れる準備ができたとき、それは自然に起こるでしょう。」
自然な催眠誘導に関する詳細は、こちらの記事をご覧ください↓

3. 言語と暗示のスキル
🔹 ミルトンモデル(間接的な言語の使用)
明確な命令ではなく、曖昧で柔軟な表現を使い、クライアントの無意識に変化の余地を与える技術。
ポイントはこんな感じです↓
- 「あなたがリラックスするとしたら、それはいつから始まるでしょう?」(リラックスすることを前提とした問いかけ)
- 「この方法が役立つかどうか、試してみるといいかもしれません。」(選択肢を与えることで抵抗を減らす)
関連するエリクソンの言葉:
「言葉はしばしば無意識の扉を開く鍵である。」
ミルトンモデル・間接的な言語の使用に関する詳細は、こちらの記事をご覧ください↓

🔹 許容的で力を与える言葉
クライアントの選択肢を広げる柔らかい言葉遣いを使い、治療に前向きな気持ちを持たせる。
ポイントはこんな感じです↓
- 「もしあなたがこの変化を楽しめるなら、それは素晴らしいことですね。」
- 「あなたがこれを自然に受け入れると、どんな良いことが起こるでしょう?」
関連するエリクソンの言葉:
「クライアントにはすでにすべてのリソースが備わっている。」
許容的で力を与える言葉に関する詳細は、こちらの記事をご覧ください↓

4. 無意識への働きかけ
🔹 メタファー(比喩)の活用
直接的にアドバイスをするのではなく、物語や比喩を使って無意識に気づきを与える方法。
ポイントはこんな感じです↓
- 「凍った湖が春の暖かさでゆっくりと溶けていくように…」という比喩を使って変化のイメージを植え付ける
- 童話や寓話を応用し、クライアントに新しい視点を提供する
- 関連するエリクソンの言葉:「最も効果的な暗示は、物語の形で伝えられる。」
メタファー(比喩)に関する詳細は、こちらの記事をご覧ください↓

🔹 注意の分散(散在技法)
クライアントの意識を複数の感覚に分散させることで、無意識がより自由に働く状態を作る技法。
ポイントはこんな感じです↓
- 「右手の感覚に集中しながら、呼吸のリズムにも意識を向けてください。」
- クライアントが「考えすぎる」ことを防ぐために、意識を分散させる
注意の分散(散在技法)に関する詳細は、こちらの記事をご覧ください↓

5. 解決志向のスキル
🔹 未来志向
クライアントの「問題」ではなく、「望ましい未来」に焦点を当てる。
ポイントはこんな感じです↓
- 「もし問題が解決したら、どんなふうに感じますか?」
- 「理想的な一日を思い描いてみてください。」
関連するエリクソンの言葉:
「あなたが解決策を見つけることは、すでに始まっている。」
未来志向に関する詳細は、こちらの記事をご覧ください↓

🔹 小さな成功の積み重ね
クライアントが達成可能な小さな目標を設定し、それを積み重ねることで大きな変化を生み出す。
ポイントはこんな感じです↓
- 「今日、どんな小さな変化ができそうですか?」
- 「最初の一歩を踏み出すと、次の一歩が自然に見えてくるものです。」
関連するエリクソンの言葉:
「大きな変化は、小さな変化の連続である。」
小さな成功の積み重ねに関する詳細は、こちらの記事をご覧ください↓

6. 混乱技法(パターンの破壊)
クライアントの固定観念を崩し、新しい気づきを生み出す方法。
ポイントはこんな感じです↓
- 意図的に矛盾した指示を出す(例:「リラックスしようとしなくても、気がついたらリラックスしていますよね?」)
- ユーモアや意外性のある言葉で、クライアントの思考のパターンを変える
関連するエリクソンの言葉:
「ユーモアと驚きは治療の最高の道具である。」
乱技法<意識の枠を外す催眠誘導>に関する詳細は、こちらの記事をご覧ください↓

まとめ
初心者が学ぶべきエリクソン派催眠療法のスキルは、ラポール形成、催眠誘導、言語技術、無意識への働きかけ、解決志向、混乱技法など多岐にわたります。
重要なのは、クライアントの持つ「無意識の力」を尊重し、それを引き出すサポート役に徹することです。
エリクソンの言葉を活かしながら、自然な形で催眠を活用できるスキルを身につけていきましょう。
参考元:
solution‐oriented hypnosis : An Ericksonian approach
ミルトンエリクソンの催眠療法入門 金剛出版社
W・H・オハンロン (著), M・マーチン (著)
Hope & resiliency : understanding the psychotherapeutic strategies of Milton H. Erickson, MD
ミルトンエリクソン心理療法 : レジリエンスを育てる 春秋社
ダン・ショート (著), ベティ・アリス・エリクソン (著), ロキサンナ・エリクソン-クライン (著)