NLPで学ぶミルトンモデル④-7:注意の分散(散在技法)

注意の分散(散在技法)

「意識をどこに向けるかによって、あなたの経験は変わる。」

— ミルトン・エリクソン

1. 注意の分散(散在技法)とは?

エリクソン派催眠療法では、クライアントの意識を特定の一点に集中させるのではなく、複数の感覚や情報に分散させることで、催眠状態を深める技法をよく使用します。これを「注意の分散(散在技法)」といいます。

なぜ注意を分散させるのか?

人間の意識は一度にすべての情報を処理することが難しいため、注意を複数の対象に向けさせることで、意識的な思考をオーバーロードさせ、無意識の働きを促すことができます。

例えば、次のような状況を考えてみましょう。
「右手の指先の感覚に注意を向けながら、同時に呼吸のリズムも感じつつ、部屋の温度が少しずつ変わるのを意識してみてください。」

このように注意を複数の対象に分散させると、意識が混乱し、自然と催眠状態に入る準備が整うのです。

2. 注意の分散を使うメリット

  • 無意識の働きを強化する
    → クライアントの意識が混乱し、無意識がより受動的になり、暗示を受け入れやすくなる。
  • クライアントの抵抗を減らす
    → 「催眠に入らなければならない」というプレッシャーを軽減し、リラックスしやすくする。
  • 深い催眠状態を誘導しやすい
    → 意識の焦点をぼかすことで、クライアントが自然にトランス状態へと移行しやすくなる。

3. 注意の分散を使った具体的な方法

① 身体感覚を使う

クライアントの身体の異なる部分に同時に注意を向けさせることで、催眠誘導を促します。

✅ 具体例

治療者:
「今、この椅子に座っている感覚を感じながら…同時に、右足の重さも少し意識してみてください。そして、その間に、呼吸がどんなふうに動いているかにも注意を向けてみましょう。」

👉 クライアントは意識の焦点が分散することで、深いリラックス状態に入りやすくなります。

② 外部の環境を利用する

クライアントの周囲の環境に意識を向けさせることで、注意を拡散し、自然に催眠に入る準備を整えます。

✅ 具体例

治療者:
「この部屋の音に耳を澄ませてみましょう。遠くで何か小さな音が聞こえるかもしれません。そして、その音を聞きながら、体の中で一番温かい部分を探してみてください。その間に、あなたの呼吸がどんなリズムを刻んでいるのかにも気づくかもしれませんね。」

👉 クライアントの注意が複数の対象に向くことで、意識的な思考が減り、無意識のプロセスが活性化されます。

③ 言語的注意の分散

会話の中でクライアントの意識を複数の対象に向けさせることで、自然に催眠状態へ導きます。

✅ 具体例

治療者:
「あなたは今、私の声を聞きながら、同時に、体がどんなふうにリラックスしているかを感じることができます。そして、その一方で、どこかの部分に少し違う感覚が生まれていることに気づくかもしれませんね。」

👉 クライアントの意識が拡散し、無意識がより活性化される。

④ 数字を使った注意の分散

数を数えながら、同時に異なる感覚に注意を向けることで、意識を分散させます。

✅ 具体例

治療者:
「10から1までゆっくりと数えていきます。その間に、呼吸がどんなふうに変わるのかを観察してみてください。9…8…足元の感覚にも意識を向けてみましょう。7…6…まぶたの重さが少し変化しているかもしれません。」

👉 クライアントが数を意識することで、余計な思考が減り、催眠状態に入りやすくなる。

⑤ 矛盾した指示を与える(混乱技法と組み合わせる)

クライアントの意識がどこに向けばいいのか分からなくなることで、無意識が活性化されます。

✅ 具体例

治療者:
「今、あなたの左手に少し注意を向けてみてください。そして、同時に右手の温かさを感じながら、どちらの手がよりリラックスしているかを考えてみてください。でも、それを考えようとする間に、すでに何かが変わっていることに気づくかもしれません。」

👉 クライアントの意識が迷子になることで、無意識が働き始める。

4. 注意の分散を使った催眠誘導の流れ

① ラポール形成(信頼関係を築く)

✅具体例

「今日はどんなことに意識を向けるのが心地よいか、興味深いですね。」
(クライアントが意識の焦点を柔軟にする準備を整える。)

② リラックスを促す

✅ 具体例

「今、この椅子の感触を感じながら、同時に、呼吸がどんなリズムを刻んでいるのかにも意識を向けてみてください。」
(身体感覚を利用して注意を分散させる。)

③ 深い催眠状態に導く

✅ 具体例

「私の声を聞きながら、同時に、どこかの部分で変化を感じていることに気づくかもしれませんね。そして、それに気づいた瞬間に、意識はさらに深くリラックスしていきます。」
(クライアントの無意識を活性化させ、催眠状態を深める。)

5. まとめ

注意の分散(散在技法)は、クライアントの意識を複数の対象に向けさせることで、催眠状態を深める効果的な技法です。

✅ 注意の分散を使うポイント

  • 身体感覚に注意を向けさせる(「椅子の感触を感じながら、呼吸のリズムにも意識を向けてください。」)
  • 外部環境を利用する(「遠くの音を聞きながら、体の温度にも気づいてみましょう。」)
  • 言葉で意識を分散させる(「私の声を聞きながら、リラックスの感覚も感じてください。」)
  • 数字を使って注意を分散させる(「10から1まで数えながら、どんな変化が起こるか観察してください。」)
  • 矛盾した指示を与えて混乱させる(「左手に注意を向けながら、右手の感覚も感じてみてください。」)

この技法を使うことで、クライアントは無理なく催眠状態に入り、自然な形で変化を受け入れやすくなります。
まずは、日常の会話の中で意識の焦点を複数に向ける練習から始めてみましょう!

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