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小さな成功の積み重ね:催眠療法における変化の鍵
「大きな変化は、小さな変化の連続である。」
— ミルトン・エリクソン
1. 小さな成功の積み重ねとは?
ミルトン・エリクソンは、「人は一度に大きく変わるのではなく、小さな変化を積み重ねることで、やがて大きな変化を生み出す」と考えていました。
多くのクライアントは、「自分を変えなければならない」「すぐに結果を出さなければならない」というプレッシャーを感じています。しかし、大きな目標を設定すると、それに対する不安や抵抗が生じ、行動できなくなることがあります。
そのため、エリクソン派催眠療法では、「小さな成功体験を積み重ねる」ことを大切にします。
例えば、
❌ クライアント:「不安を完全になくしたい。」
✅ 治療者:「今、少しでも安心できる瞬間を増やすことから始めませんか?」
このように、「完璧なゴール」ではなく「今できる小さな変化」に焦点を当てることで、クライアントは無理なく行動できるようになります。
2. なぜ小さな成功が重要なのか?
1. 自信を高める
小さな成功を積み重ねることで、「自分にもできる」という感覚が生まれ、自信がつきます。
✅ 具体例
クライアントが「自分には何もできない」と思っている場合、**「これまでにできたことを思い出してみましょう」**と誘導する。
例えば、「今朝、ちゃんと起きられましたね。それも1つの成功です。」と伝えることで、小さな成功を意識させる。
2. 無意識の抵抗を減らす
大きな変化を求めると、無意識が「難しすぎる」と感じて抵抗することがあります。しかし、小さな変化なら「これならできそう」と感じられます。
✅ 具体例
- ❌ 「毎日1時間運動してください。」(抵抗が大きい)
- ✅ 「まずは、1日に1回深呼吸してみましょう。」(抵抗が少ない)
3. 自然な行動変容を促す
小さな成功を積み重ねることで、新しい習慣が形成され、やがて大きな変化へとつながります。
✅ 具体例
「不安を減らしたい」クライアントに対し、**「今日は5分だけ、リラックスする時間を取ってみましょう。」**と提案する。
それが習慣化すれば、「次は10分」「次は20分」と自然に増やしていくことができる。
3. 小さな成功を積み重ねる具体的な方法
① 「今できること」に意識を向ける
クライアントが**「今の自分にできること」**を見つけられるように誘導します。
✅ 具体例
- 治療者:「この問題が少しでも楽になるために、今できることは何でしょうか?」
- クライアント:「深呼吸をすることならできそうです。」
- 治療者:「素晴らしいですね。それでは、1回深呼吸してみましょう。」
👉 クライアントは「できた!」という実感を得られる。
② 「すでにできていること」に気づかせる
クライアントは「何もできていない」と思いがちですが、すでにやっていることに気づかせることで、自信を引き出せます。
✅ 具体例
- 治療者:「あなたがこれまでに、不安を乗り越えた経験はありますか?」
- クライアント:「そういえば、前に同じような状況があって、なんとかやり遂げました。」
- 治療者:「それは素晴らしいですね。では、そのときにどんな工夫をしましたか?」
👉 「自分はすでにできている」という認識を持つことで、行動へのモチベーションが上がる。
③ 成功を言語化する
「できたこと」を言葉にすることで、無意識に定着しやすくなります。
✅ 具体例
- 治療者:「今日は、どんな小さな成功がありましたか?」
- クライアント:「少しだけ、前より落ち着いて話せました。」
- 治療者:「それは素晴らしいですね。では、その感覚をもう少し感じてみましょう。」
👉 成功を認識しやすくなり、さらなる行動変化を促す。
④ 小さな行動目標を設定する
いきなり大きなゴールを目指すのではなく、達成可能な小さな目標を設定します。
✅ 具体例
- ❌ 「人前で堂々と話せるようになりたい。」(大きすぎる目標)
- ✅ 「まずは、1対1の会話で少しゆっくり話してみる。」(小さな目標)
⑤ 「どんな小さな変化も価値がある」と伝える
クライアントがどんな小さな変化でも、価値があることを理解できるようにします。
✅ 具体例
治療者:「たとえ1%の変化でも、それは確実に前進です。その1%の変化が、積み重なって大きな変化につながるのです。」
👉 クライアントが「小さなことでも意味がある」と思えるようになる。
4. 小さな成功を積み重ねる催眠誘導の例
「小さな成功を広げる催眠スクリプト」
- 目を閉じて、これまでに経験した「小さな成功」を1つ思い出す。
- そのときの感覚や気持ちに意識を向ける。
- その成功の感覚が、少しずつ今の自分にも広がっていくことをイメージする。
- 未来の自分が、その感覚を活かして、さらに前進している姿を思い描く。
- ゆっくりと目を開け、その感覚を持ち帰る。
👉 クライアントは、成功の感覚を強化し、次の行動につなげることができる。
5. まとめ
「小さな成功の積み重ね」は、クライアントが無理なく変化できるようにする、エリクソン派催眠療法の重要なアプローチです。
✅ 小さな成功を積み重ねるポイント
- 「今できること」に意識を向ける(「まずは1回深呼吸してみましょう。」)
- 「すでにできていること」に気づかせる(「以前乗り越えた経験を思い出してみましょう。」)
- 成功を言語化する(「今日はどんな小さな成功がありましたか?」)
- 小さな行動目標を設定する(「まずは1対1の会話で少しゆっくり話してみましょう。」)
- 「どんな小さな変化も価値がある」と伝える(「1%の変化も、大きな前進です。」)
この技法を使うことで、クライアントは「自分には変われる力がある」と実感し、自然に成長していきます。まずは、「小さな変化に気づくこと」から始めてみましょう!
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