どの業種であれ商売をしているのであれば、必ず自社商品に対してクレームが入ります。
クレームに関しては、一部に商品の欠陥、お客様への対応方法など、しつこく苦情を言い、それも言いがかりと受け取られるような言動を行うクレーマーが存在する。
中でも、業務妨害にまで発展させたり金品の要求を目的とする人たちはハードクレーマーと呼ばれています。
1、ある高齢者施設におけるハードクレーマーの例
以前、ある高齢者施設において、所長からある元経営者の女性入居者の態度についての相談を受けたことがあります。
その入居者A氏は、主に以下のような行動をとられていました。
A氏の迷惑行為の現状:
- 主に食堂へこられたとき、ご自身にとって気に食わないことがあった場合、他入居者に対して大声で暴言を吐く。
- ロビーで談笑する人たちに対して、自分の悪口をいっている、という事実でもない妄想とともに当人たちをその場で攻撃したり、スタッフに愚痴をいう。
- 気に入らないスタッフを呼びつけ、「お前は〇〇がなっていない」と大声で文句をいい、紙に名前をフルネームで書かせ、「所長を呼べ」と言ってマウントをとろうとする。
- 彼女から被害を受けた普通の入居者たちは、A氏が通らない別のロビーで談笑するようになっている。所長もその方法を薦めている。
① 所長と職員の対応状況
では当時、所長や職員たち、特に社員になりますが、どのような対応されていたのでしょうか?
職員の対応をみる限り、今回のクレーマー対応に関しては、関わると嫌な思いをするし、エネルギーも非常にかかる。
また、こちらの言いたいことを受け取る素直さはほぼ皆無なため、さらに本人の気まぐれで癇癪を起すため、どうしてもその場さえなんとかなればというその場しのぎに対応になってしまいがちであった。
これは人間心理として当然だろうと思った。
ただ、見ていて思ったのは社員の対応がばらばらで一貫性がないため方針がないように思えた。
案の定、所長や社員に対して対応方法を確認してみたが、明確な回答はなく、その場限りの対応になっている。対応方法が見いだせていなかったのだろう。
かといって、クレーマーに関する知識や情報を勉強して対策を考えようとしていないし、社員間での意見交換もなく先送りにしている。
実は、この部分こそが最大の課題だと思った。
この高齢者施設の理念の中にこういう文言がある。
「入居者の安心と安全を守り…」
つまり、被害者と呼ばれる他の入居者たちの安心・安全は、守ろうとしていないわけで、理念に反した処置が行われていることへの自覚もなかった。
② クレーマーとして有名な利用者へのよくない対応法
ハードクレーマーの対応を、この高齢者施設の会社の方針として伝えている内容を以下抜粋する
- 利用者の言われるがままに対応してしまった
- 利用者とのトラブルを恐れている
- 解決をしていない
文字にすると簡単なこれらのこが、現実的にどれくらい行動できるのだろうか?
③ 今後の方針
まず、契約内容を再確認して、できること、できないこと、注意することなどを明確にしていくことは必要である。
A氏の行動分析を行い、社員間でのブレストや対応方法の検討、その共有が必要である。その上で、パートさんに対してはケーススタディを作るなどして、対応に協力していただく。社員とパート社員の役割を知ることも重要。
そこで、私の考え方や提案を一方的に伝えるのではなく、まずはハードクレーマーに対する具体的な対策などは書籍などで既にたくさん存在しているため、この施設に合っていると思われる書籍を提示して、対応方法の事例をしっかり読んでいただき、所長と社員を中心にハードクレーマーA氏についての現在の課題、対応策を考えていくことにした。
2、ハードクレーマの対応に関するさまざまなノウハウ
今回の件で、高齢者施設で提示させていただいた3冊のハードクレーマ対応ノウハウ系の書籍とその簡単な対応方法のポイントなどをご紹介させていただきます。
詳しくは、実際に書籍をお読みいただくことをおすすめします。
①「クレーム対応完全撃退マニュアル」援川聡 著より抜粋
1冊目は、「クレーム対応完全撃退マニュアル」援川聡 著です。
また、活用できるノウハウを以下に簡単にピックアップします。
- クレーマーから「責任者を出せ!」と言ってきた場合の対応
パートの場合「まず社員を読んでまいりますね」
社員の場合「私が責任を持ってお聴きし、協議した上で。対応させていただきます」 - 相手の行動を録画・録音する
悪質なクレーマーに関しては黙って録音しても法律違反にはならない。
言った言わないの水掛け論を防いでくれる
クレーマーの人となりをしる手がかりになる - 本人とキーパーソンに対して文章による回答及び控えを社内で共有する
- 挨拶力で未然に防ぐ
お客様は「見られないこと」に腹を立てていることが多い
②「事例でわかる自治体のためのハードクレーム対応」横山雅文 著より抜粋
2冊目は、「事例でわかる自治体のためのハードクレーム対応」横山雅文 著です。
また、活用できるノウハウを以下に簡単にピックアップします。
「ハードクレーマーの隠れた目的は精神的自己満足。ゆえに代替案の提案は受け入れない・」
【適切な初期対応】
- 丁寧な説明・説得と素直な回答を繰り返す。専門用語はつかわない
- 相手が置かれた状況・事情に配慮を示す
住宅内のルールを簡単に説明した上で要求をお断りする
「お怒りはわかるのですが…」 - 逃げずに素直に回答する
「ご要望に対して十分に配慮してまいります」とかではなく「ご要望の〇〇に対してお約束することは致しかねます。と申しますのは…」と素直に回答して理由を述べる。
強弁な要求をされた際、お断りすると紛糾するのではないかという懸念から耳障りの良い言葉で逃げようとしがちになる。その場合、クレーマーのスイッチが入ってしまう。
要求の核心に答える回答をすることが重要で、それによる紛糾を恐れない方が、かえって交渉が上手くいく。 - 説明・説得を繰り返す
顧客中心主義が広まって反論されない環境になってしまうと、「自分の意見は常に正しい」という意識が強くなり、1回、2回の説明では理解してもらえない。10回以上は根気よく、説明・説得を繰り返す。 - 説得・説明は1時間
納得してもらおうとする疲弊するため、「諦めてもらう」という観点から説明・説得を繰り返す方がうまくいく。 - 傾聴しすぎず、少し押し返す
無理難題な要求については、できませんと率直に答え、できないものはできないという 。少し紛糾したとしても率直に回答した結果の紛糾は避けない、ということが実は一番大事。 延々と言い分だけを聞いているのは決してよくない。聞きすぎると クレーマーのペースになってしまい、延々と無理難題な要求を繰り返されてしまう。だから、少し押し返すということが必要となる。
「やはり私たちは、〇〇の理由から〇〇のご要望には応じることができません」など。
このようなやり取りを繰り返すことによって、最初は無理難題なことを言ってた人も次第に穏当なっていく。
※つまり、理不尽なクレーマーはその会社、組織、その施設が作り出している
③ 「超一流のクレーム対応」谷 厚志 著より抜粋
3冊目は、「超一流のクレーム対応」谷 厚志 著です。
また、活用できるノウハウを以下に簡単にピックアップします。
- 最初にお詫びをするのが効果的。ただし限定的なお詫び
「申し訳ございません」「すいません」などの全面謝罪ではなく、例えば「ご不便をおかけしております」「あってはならないことですね」の限定謝罪 - 事実確認と要望確認
いつ、どこで、何があったのか→事実 そもそもどうしたかったのか→要望 - できることと、できないことを明確にする、何度も伝える
- 魔法の言葉
クレーム対応の最後に「御礼の言葉で終わる」
「この度は〇〇していただいてありがとうございました。」 - お客様が解決策に納得しない場合は、解決策を3つ提示
1回目:まず、わかりやすく伝える
2回目:背景や根拠を伝える
3回目:過去の事例を伝える - 最後の手段も考えておく
自分たちの仕事に明らかに悪い影響を与えるお客様には、最後の手段としてご退場いただくという考え方を持つことはとても重要。施設の場合、他に入居者やスタッフを守ることも長の大切な役割。
3冊のハードクレーマ対応ノウハウ系の書籍とその簡単な対応方法のポイントなどをご紹介させていただきましたが、これだけでも、まだやっていなかったというノウハウがたくさんあると思います。
ですが興味がある方はぜひご購入いただいてしっかりとお読みいただくことをおすすめします。
④ この高齢者施設の課題
書籍を読んでいただいて所長、社員たちの最初に決めた方針は以下のようになった。
- 相手にとってマイナスなことをきちんと受け取られるように覚悟を持つことが必要
- この施設では、過度なわがままはできないのだ、と思い込ませる対応を行う
- 所長を呼べ、名前を書け、と言われたときに自然に拒否できるようになること
- そのためには特に所長にはI氏に対して社内で最も厳しい姿勢をとる必要がある。スタッフが厳しく接しても、所長がなあなあ感をだして楽するとすべてが台無し。
- 社員間で定期的な対応方法のアップデートを行う
これをスタート地点にして、試行錯誤していくことが重要で、現実的には大変なことだが、それらは必ず当事者たちの素晴らしい学びになると思われる。
まとめ
ハードクレーマの対応についてのこれは正解だ、というのは業種や置かれている立場も違うためもちろんありませんが、事例や手段などはたくさん書籍などで紹介されていますので、それらを読んでインプットして欲しいと思う。
その上で、今回、こういうことを試したけど、次はこの手でやってみたい、など前向きな対応が現場から出るような環境をその職場でのトップは作っていただきたい。
良くも悪くも、必要なことが必要なときに目の前で起きているという認識を持ち、すべて成長するための学びだと捉えて、そのトップが一番の覚悟をもってことに当たっていっていただきたいと思う。