アドラー心理学におけるコミュニケーションの重要性は、人間関係において相手を理解し、共感することであり、自己肯定感を高め、自己実現を促すことにつながります。
たとえば、職場で上司や同僚とのコミュニケーションにおいても、家族や友人とのコミュニケーションにおいても、コミュニケーションの取り方とその本質は同じです。
具体的には、相手の話を聴き、受け止めること、受容的な態度をとること、相手の立場に立って考えることが重要です。
それはすべて相手を尊重するということが前提であり、そのような態度で接せることで、相手との信頼関係を築き上げたり、相手とのコミュニケーションを改善し、より良い人間関係を築くことができます。
本記事では、あらためてアドラー心理学で唱えているコミュニケーション・スキルをまとめてみましたので、ぜひ参考にしていただければと思います。
1、コミュニケーション・スキルの基本とアドラー心理学
アドラー心理学では、コミュニケーションスキルの向上が重要視されています。
まずは、自分自身がどのようなコミュニケーションスタイルを持っているかを把握することが必要で、アドラー心理学では、自己開示、受容的コミュニケーション、共同体感覚といったコミュニケーションスキルの向上が重要視されています。
- 自己開示という概念
これは、自分自身の気持ちや考えを相手に伝えることで、自分自信の本当のこと、真実を語ることで相手に安心感を与えます。そのことで、相手は少しずつ信頼していくようになり、関係を深め、コミュニケーションの円滑化を図るという考え方です。 - 受容的コミュニケーションという概念
これは、相手の話に耳を傾け、相手の気持ちを受け止めることで、相手とのコミュニケーションを深めるという考え方です。 - 共同体感覚という概念
これは、相手と協力し合い、共同で目標を達成することで、相手との信頼関係を深め、コミュニケーションを円滑にするという考え方です。たとえば、職場でプロジェクトを進める場合には、チームメンバー全員が共同で目標を設定し、協力し合うことで、プロジェクトが成功する可能性が高くなります。
以上のように、アドラー心理学では、自己開示、受容的コミュニケーション、共同体感覚といったコミュニケーションスキルの向上が重要視されています。
これらのスキルを身につけることで、人間関係の改善やコミュニケーションの円滑化が図られる可能性が高くなります。
2、コミュニケーションスキルの実践方法
コミュニケーションスキルは、アドラー心理学において非常に重要な役割を果たします。
具体的なコミュニケーションスキルを身につけることで、人間関係を改善し、自己実現や成功につながることがあります。
以下では、アドラー心理学に基づく具体的なコミュニケーションスキルを紹介します。
① 受容的コミュニケーション
受容的コミュニケーションとは、相手の話を聴き、その気持ちを理解し、受け止めることです。
例えば、職場で上司からの指示を聞いたときに、「はい、分かりました」と素直に返事をするだけでなく、指示内容から相手の深い意図を理解しようとする姿勢を持つことですす。
当然ながら、相手が話をしているときには、遮らずに相手の話を最後まで聴くことはもちろんのことながら、相手が話している内容を注意深く聴くことが必要です。
アドラー心理学では、相手の話に対して受容的な姿勢で聴くことが強調されます。
受容的な姿勢とは、相手が話していることを批判したり否定したりせず、真剣に聴き取ることです。
例えば、職場で上司から注意されたときには、まず自分が言われたことをしっかりと受け止めるようにしましょう。
自分が言われたことを否定することはせず、その場で理解することが大切です。そして、上司が何を求めているのかの意図を必ず確認し、それに向けて行動することが重要です。
そのような態度で接することで、相手は「私のことをうけとめてくれている、わかってくれている」と感じてもらえるようになりますから、自然とあなたを受け入れてくれる可能性が高くなります。
② 共感的コミュニケーション
共感的コミュニケーションとは、相手の感情を共有し、共感することです。
例えば、友人から悩みを聞かれたときに、「そういう気持ちになることもあるよね」と共感することで、友人との親密な関係を築くことができます。
これは、相手の立場に立って物事を考えることで、コミュニケーションを改善することができるという考え方です。
たとえば、相手が何か言いたいことがある場合には、相手の気持ちを理解するために自分自身を客観的に見つめ直し、共感することが大切です。
③ I(アイ)メッセージの使用
アイ・メッセージとは、「私は、こう感じます」「私はこう思います」という、「私は…」を主語にして、自分の責任として自分自身の気持ちや考えを相手に伝えることです。
その反対は、ユー(you)メッセージと言われ、「あなたは…」を主語にして、相手の責任として伝えることです。
相手を批判する場合や相手の責任にする場合は、この「you・メッセージ」になっているはずです。
例えば、職場でのミスについて上司から叱られたときには、「一生懸命やったのにそのような言い方をされると、私はとても辛い気持ちになります」というアイ・メッセージで気持ちを伝えることで、上司とのミス・コミュニケーションが減っていくでしょう。
④ 筋道を立てたアサーティブ・コミュニケーション
筋道を立てたアサーティブ・コミュニケーションとは、自分の素直な気持ち、意見や考えを相手にわかりやすく伝えることです。
そのための一つの方法をご紹介します。
- 相手に事実を伝える
- 自分の気持ちをアイ・メッセージで伝える
- 相手の自分の要望を伝える
- 相手からの反応を待つ
アイメッセージで自分の責任で相手に伝えます。
重要なことは、自分が相手に本当はどうしてほしいのかを把握しておくことです。
例えば、夫婦間でも職場でも意見が違って対立している場合、多くの場合は、自分が相手に本当はどうしてほしいのかを把握せずに、youメッセージで相手を批判しているだけになっているケースが多々あります。
自分の責任で相手に伝えて、お互いにwin-winの関係を保つために必要なスキルです。
⑤ クリティカル思考をする
アドラー心理学では、「クリティカル思考」という概念があります。
これは、自分自身がどのような思考をしているかを自己分析し、自己肯定感を高めることが大切であるという考え方です。
たとえば、相手と意見が合わない場合には、相手の意見を否定せず、クリティカル思考をもって受け止め、対話を進めることが大切です。
⑥ 相手に興味を持ち、質問する
コミュニケーションをより深めるためには、相手に興味を持ち、質問することが重要です。
相手が話している内容に興味を持ち、それについて質問することで、相手との共感を生み出すことができます。
例えば、同僚と話をしているときに、相手が趣味や好きなスポーツについて話している場合には、それについて質問してみましょう。
相手から質問されると、「この人は自分に興味があるんだな」と観じます。
逆に、声をかけてもらえなかったり無視されると嫌な気持ちになりますよね。
相手が話している内容に興味を持ち、それについて質問することで、相手との会話がより深まり、親密度を高めることができます。
3、コミュニケーションスキルを向上させるためのヒント
コミュニケーションスキルを向上させるためには、以下のようなヒントがあります。
- 傾聴する
相手の気持ちや状況を理解することで、コミュニケーションはより円滑になります。話を聞くときには、相手が何を言いたいのか、どのような気持ちで話しているのかを理解するように心がけましょう。 - 適切なフィードバックを行う
相手の話を聞いたら、適切なフィードバックを行うことが大切です。相手の言葉に対して否定的な反応をしてはいけません。代わりに、相手の言葉に共感し、理解を示すように心がけましょう。 - 質問をする
質問をすることで、相手がより深く自分自身を理解し、自分の気持ちを整理することができます。質問は、相手に対して理解を示すための有効な方法でもあります。 - オープンな態度を保つ
コミュニケーションにおいて、オープンな態度を保つことが大切です。自分の考えを押し付けたり、相手を攻撃したりしないようにしましょう。代わりに、相手の意見を尊重し、対話を行うように心がけましょう。 - 練習する
コミュニケーションスキルは、練習することで向上します。日常生活で、積極的にコミュニケーションを行い、フィードバックを受けるようにしましょう。また、自分が苦手な部分について、改善するための努力を惜しまないようにしましょう。
これらのヒントを実践することで、コミュニケーションスキルを向上させることができます。
ただし、すべての人にとって同じ方法が最適とは限りませんので自分に合った方法を模索していくことと継続することが大切です。
まとめ
コミュニケーションスキルを向上させることは、人間関係を改善するために非常に重要です。
良好な人間関係を築くためには、自己表現能力の向上、相手の意見を尊重する姿勢、共感力の向上、そしてコミュニケーションスキルの習得が必要です。
これらのスキルは、積極的な聞き手となること、適切な質問を投げかけること、感情的にならずに相手の立場を理解することなどを含みます。
また、コミュニケーションを向上させるためには、練習やフィードバックを受けることも重要です。
アドラー心理学のアプローチを用いたコミュニケーションスキルの習得は、自己肯定感の向上にもつながります。
参考資料:
- アルフレッド・アドラー著
『個性の創造』(1927)、『アドラー心理学』(1929)、『社会感覚教育』(1933)、『自己信頼の心理学』(1942) - Adler, A. (1927). The Practice and Theory of Individual Psychology. Harcourt, Brace & Company.
Mosak, H. H., & Maniacci, M. P. (1999). A primer of Adlerian psychology: The analytic-behavioral-cognitive psychology of Alfred Adler. Psychology Press. - Carlson, J., & Englar-Carlson, M. (2017). Adlerian therapy: Theory and practice. American Psychological Association.
- Sharf, R. S. (2015). Theories of psychotherapy and counseling: Concepts and cases. Cengage Learning.