この記事は、安達裕哉氏の書籍『仕事で必要な「本当のコミュニケーション能力」はどう身につければいいのか』で紹介された核心的なノウハウ、「『聞き上手』の正体を知る」についてが、傾聴についてとても参考になりますので、実践的な記事としてまとめてみましたので参考にしてください。
会議中、誰かの提案に対して腕を組み、こう言い放つ人がいます。
「いや、そのやり方だとリスクがあるんじゃないかな」
「それ、前にもやって失敗したよね」
「現場の負担を考えてないよ」
そして、「じゃあどうすればいいと思いますか?」と聞かれると、「それを考えるのが君の仕事だろう」と逃げる。あるいは「とにかく、これはダメだ」と一点張り。
あなたの職場にも、そんな人はいませんか? あるいは、あなた自身が良かれと思って「鋭い指摘」をしたつもりで、結果的にこのパターンの発言をしてしまってはいないでしょうか。
ビジネスにおいて、「代案のない反対」は、議論を停滞させるだけでなく、周囲のやる気を削ぎ、チームの雰囲気を最悪にする行為です。著者はこれを厳しく戒めています。
本記事では、なぜ「代案なき反対」があなたの評価を下げるのか、そして反対意見がある時にどう振る舞えば「建設的な解決者」として信頼されるのか、その具体的な技術を解説します。
第1章:「評論家」が嫌われる理由と、心理的コスト
まず、なぜ「代案のない反対」がこれほどまでに嫌われるのか。そのメカニズムを理解しましょう。
1. 「壊す」のは「創る」より100倍簡単
新しい案を出すこと(創造)には、膨大なエネルギーとリスクが伴います。一方で、出された案の欠点を見つけて指摘すること(批判)は、知識さえあれば誰にでも、一瞬でできてしまいます。
代案を出さずに反対だけをする人は、自分は安全な場所に身を置きながら、汗をかいて提案した人を攻撃しているのと同じです。これは、ビジネスにおける「フリーライダー(タダ乗り)」の態度であり、周囲は「自分は手を汚さない卑怯な人だ」とみなします。
2. 議論の「ボール」を捨てている
会議の目的は、全員でパスを回しながらゴール(結論)へ向かうことです。 「それは違う」という反対は、回ってきたボールを地面に叩きつける行為です。
ボールが止まれば、誰かがそれを拾いに行かなければなりません。 「じゃあどうする?」という問いが発生し、提案者が再びゼロから考え直すコストが発生します。代案がない反対は、組織全体の時間を奪う「泥棒」のような行為なのです。
3. 「当事者意識」の欠如
最も深刻なのは、反対だけする人からは「一緒にゴールを目指そう」という意思が感じられないことです。 「このプロジェクトを成功させたい」と本気で思っているなら、「このままでは失敗する。だからこっちの道を行こう」と別のルートを必死で探すはずです。それをしないのは、心のどこかで「失敗しても自分のせいじゃない」と思っている証拠です。
第2章:反対するなら「セット」で出す
では、明らかに間違っている提案や、リスクが高い案が出た時、黙って従うべきなのでしょうか? もちろん違います。イエスマンになる必要はありません。
重要なのは、「反対意見」と「代案」を必ずセットにして提示するというルールを自分に課すことです。
「No」ではなく「Yes, if」または「Alternative(代替)」
仕事ができる人は、単に否定するのではなく、条件を変えたり、別の選択肢を提示したりすることで、議論を前に進めます。
例えば、「来週までにこの機能を追加してほしい」という無茶な要求が上司からあったとします。
- × 代案なき反対(評論家): 「無理です。スケジュール的に不可能です。品質が落ちます」 → これでは「できない理由」を並べているだけで、上司は「じゃあどうするんだ!」とイライラします。
- 〇 代案ありの反対(解決者): 「現状のリソースでは来週までの完遂は難しいです(反対)。 ですが(代案1)、他のタスクBを再来週に回してもよければ可能です。 あるいは(代案2)、機能の一部をカットした簡易版でよければ、来週に間に合います。 どちらで進めましょうか?」
このように、「A案はダメです」ではなく、「A案を実現するには条件が必要です」あるいは「A案の代わりにB案なら可能です」と返す。
これなら、あなたは「反対する人」ではなく、「現実的な解決策を一緒に考えてくれるパートナー」になります。
第3章:明日から使える「代案」の作り方3パターン
いざ会議の場で代案を出そうとしても、すぐに素晴らしいアイディアが浮かぶとは限りません。そこで、すぐに使える「代案作成の3つの型」を紹介します。これを使えば、どんな状況でも建設的な発言ができます。
パターン1:トレードオフ型(条件付き賛成)
何かを犠牲にすれば実現できる、という提案です。
公式: 「その案には賛成できません。ただし、[予算/時間/人員] を追加してもらえるなら可能です」
解説: 単なる拒否ではなく、「条件の交渉」に持ち込むことで、決定権を相手に戻します。
パターン2:スコープ縮小型(部分的な実行)
全体は無理だが、一部ならできる、という提案です。
公式: 「全体を一度にやるのはリスクが高いです。まずは、[特定の部署/特定の機能] だけでテスト運用してみませんか?」
解説: 「全否定」せず、「スモールスタート」を提案することで、リスク回避と前進を両立させます。
パターン3:期間猶予型(調査の提案)
その場では判断できない場合の、アクションの提案です。
公式: 「今の情報だけではGoが出せません。明日の昼までに私が〇〇について調査してきますので、そこで最終判断しませんか?」
解説: 「わからないから反対」ではなく、「判断材料を集める」という行動を代案にします。これも立派な「前に進める行為」です。
まとめ
ビジネスにおけるコミュニケーションにおいて、「何を言うか」以上に重要なのは、「どういうスタンス(姿勢)で言うか」です。
- 評論家にならない: 安全圏から石を投げるだけの反対は、信頼を失う。
- セットで出す: 「反対」は必ず「代案」という贈り物と一緒に提示する。
- 前に進める: 議論を止めるのではなく、別のルートを示してゴールへ導く。
会議で誰かの意見に違和感を持ったら、発言する前に一呼吸置き、自問してください。 「で、自分ならどうするか?」
もし代案が思いつかないなら、今はまだ反対すべきタイミングではないのかもしれません。あるいは、「代案を一緒に考える時間」を提案するのも一つの手です。 「代案のない反対はしない」。このシンプルなルールを徹底するだけで、あなたは周囲から「頼りになる解決者」として一目置かれるようになるでしょう。
参考書籍:安達裕哉 著『仕事で必要な「本当のコミュニケーション能力」はどう身につければいいのか』

