頭の中で繰り返される”あの声”は、消せなくても調整できる
あなたには、何年も前の記憶なのに、今でも鮮明に思い出せる言葉がありませんか。
「お前には無理だよ」
「なんで、こんなこともできないの?」
「期待してたのに、残念だな」
不思議なことに、褒められた言葉はすぐに色褪せるのに、傷ついた言葉だけは昨日のように鮮明です。会議の前、通勤中、布団の中――何かのきっかけで、その”声”が勝手に再生される。
一方で、あなたにも温かくなれる記憶があるはずです。
誰かに感謝された瞬間。初めて成功した企画。家族に褒められた夕暮れ。
それを思い出すと、自然と呼吸が深くなって、少し前を向ける。
同じ「記憶」なのに、なぜ影響力がこうも違うのか。
実は、記憶の強さは「出来事の重大さ」ではなく、あなたの脳が無意識に設定している”再生方法“によって決まっています。
NLPでは、この再生方法を「サブモダリティ」と呼びます。
サブモダリティとは何か――記憶の”形式”が感情を決めている
サブモダリティとは、**視覚・聴覚・身体感覚それぞれに含まれる”再生の細かい設定”**のことです。
あなたの脳は、記憶を映像・音声・感覚の3つの感覚(VAK)で保存しています。
そして、それぞれの記憶には「どう再生するか」という細かい属性がついています。
| 感覚 | サブモダリティの例 |
|---|---|
| 視覚 | 明るさ、色の有無、距離、サイズ、動画/静止画、鮮明さ |
| 聴覚 | 音量、トーン、速度、リズム、方向(どこから聞こえるか) |
| 身体感覚 | 温度、重さ、圧力、場所(胸、喉、肩など) |
たとえば、上司に怒鳴られた記憶が忘れられない人は、無意識にこんな設定をしています。
- 映像:上司の顔が目の前に大きく、カラーで鮮明に映っている
- 音声:声が大音量で、頭の中で反響している
- 感覚:胸に冷たく重い塊がある
一方、同じ出来事でも「あの時は大変だったな」程度に思い出せる人は、こうです。
- 映像:遠くから俯瞰で見ている、色あせている
- 音声:小さく、遠くから聞こえる
- 感覚:特に体に何も感じない
内容は同じ。でも、再生方法が違うだけで、感情のインパクトは真逆になる。
つまり、あなたを苦しめているのは「過去の出来事」そのものではなく、脳が勝手に設定した”再生形式”なのです。
「忘れよう」としても無駄だった理由
あなたはこれまで、嫌な記憶を消そうと努力してきたかもしれません。
「考えないようにしよう」
「前向きになろう」
「もう過去のことだ」
でも、うまくいかなかった。
なぜなら、脳は**「消去」ではなく「上書き」でしか記憶を扱えない**からです。
「ピンクの象を想像しないでください」と言われたら、誰もが一瞬ピンクの象を想像してしまいます。
記憶も同じで、「思い出すな」と命令すればするほど、その記憶は鮮明に再生されます。
だから、必要なのは「消す」ことではなく「再生方法を変える」こと。
サブモダリティという概念は、あなたに初めて「記憶のリモコン」を手渡します。
サブモダリティの調整は、誰でも今すぐできる
ここで重要なのは、サブモダリティは生まれつきの性格や才能ではないということです。
誰もが無意識に設定しているだけで、意識的に調整することができます。
音量を下げる。
距離を遠くする。
色を白黒にする。
これだけで、過去の記憶はあなたを縛る呪いから、ただの情報へと変わります。
実践:サブモダリティを調整する3つの方法
【方法①】映像の距離を遠ざける(視覚調整)
状況:嫌な上司の顔が頭から離れない
やり方:
- 目を閉じて、その記憶の映像を思い浮かべる
- その映像が「目の前30cm」にあるか、「3m先」にあるか確認する
- 心の中で、映像をゆっくりと後ろに引いていく
- 10m、20m、100m先まで遠ざけ、最終的には「豆粒サイズ」にする
なぜ効くか:
脳は「近い=重要、危険」と判断します。距離を取ることで、自動的に感情の強度が下がります。
【方法②】音声のボリュームを下げる(聴覚調整)
状況:誰かの否定的な言葉が頭の中でリピートされる
やり方:
- その声が「どこから聞こえるか」を特定する(頭上、耳元、胸の中など)
- 心の中で、その声にボリュームのつまみをイメージする
- つまみを左に回して、音量を半分、さらに半分にする
- 最後は「ささやき声」か「ミュート」にする
応用:
逆に、自分を励ます言葉(「大丈夫」「よくやった」)は音量を上げて、温かいトーンで、自分の真正面から聞こえるように設定してください。
【方法③】身体感覚の温度を変える(体感調整)
状況:不安やプレッシャーが胸や喉に重くのしかかる
やり方:
- その感覚が「どこに、どんな形で」あるか観察する(例:胸に冷たい石)
- その感覚に温度と色をつける(例:灰色で冷たい)
- 心の中で、その塊を温かいオレンジ色の光で包む
- ゆっくり温度を上げ、最後は温かい空気のように軽く、体から外へ抜けていくイメージをする
なぜ効くか:
感情は必ず身体感覚とリンクしています。感覚を変えることで、感情そのものが変化します。

これは”気持ちの問題”ではなく、脳の仕組みである
サブモダリティを使えるようになると、あなたは過去の囚人から、記憶の編集者へと変わります。
嫌な記憶は小さく、遠く、静かに。
温かい記憶は鮮やかに、近く、大きく。
これは「ポジティブシンキング」のような根性論ではありません。
脳の仕組みを理解し、システムとして再設定する技術です。
そして、この技術は過去だけでなく、未来にも使えます。
- プレゼン前の不安 → 成功している自分の映像を鮮明に、大きく、カラーで描く
- 苦手な人との会議 → 穏やかに話している場面を、温かい光の中でイメージする
あなたが何を感じるかは、あなたの脳が何を、どう再生するかで決まる。
ならば、その設定は自分で決めていい。
無理に変わらなくていい。でも、調整はできる。
サブモダリティは、あなたに「変われ」とは言いません。
性格を変える必要も、過去を否定する必要も、誰かを許す必要もありません。
ただ、再生設定を少し調整するだけ。
明日、また誰かの言葉が頭に浮かんだとき。
今度は「音量を下げる」選択ができる自分に、少し驚いてください。
さらに学びたい方へ
サブモダリティは、NLPコミュニケーションの基礎技術のひとつです。
相手との関係性を整えるには、まず自分の内側を整えることが何より大切。
次は、こちらの記事も読んでみてください。
- 「VAKモデル──相手の”感覚の言語”を聞き取る技術」
視覚・聴覚・体感覚、どのタイプの人にも届く言葉の選び方がわかります。 - 「リフレーミング──同じ出来事を、別の意味に変える力」
サブモダリティと組み合わせることで、さらに深い変化を生み出せます。
あなたの中にある記憶は、もう二度と変えられないものではありません。
今この瞬間から、編集できる。調整できる。やり直せる。
それが、NLPがあなたに手渡す、静かで、確かな自由です。
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