この記事は、安達裕哉氏の書籍『仕事で必要な「本当のコミュニケーション能力」はどう身につければいいのか』で紹介された核心的なノウハウ、「『聞き上手』の正体を知る」についてが、傾聴についてとても参考になりますので、実践的な記事としてまとめてみましたので参考にしてください。
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「もっとこうすればいいのに」
「なんでこんな簡単なことができないんだ」
部下や後輩の相談に乗っていて、ついそう思ってしまうことはありませんか?
そして、良かれと思って「だから、こうすればいいんだよ」と正解(アドバイス)を伝えたのに、相手の反応が鈍い。あるいは、「わかりました」と言ったのに全く行動が変わらない。
そんな経験があるなら、あなたの「アドバイスの順番」が間違っている可能性があります。
実は、人はどれほど論理的に正しい答えであっても、他人に押し付けられた「正論」では動きません。人が動くのは、納得感を持って「自分で決めた」ときだけです。
本記事では、書籍で紹介されている「アドバイスの6つのステップ」をベースに、部下の思考を停止させず、自発的な行動を引き出すための具体的なロードマップを解説します。これを実践すれば、あなたは「口うるさい上司」から「気づきを与えてくれるメンター」へと変わることができます。
第1章:なぜあなたの「正論」は部下を黙らせるのか
相談に来た部下に対して、開口一番で解決策を言ってしまう。 これを著者は強く戒めています。ビジネスの現場で最もありがちで、かつ最も効果の低いコミュニケーションだからです。
「答え」を先に言うことの弊害
あなたが即座に解決策を提示したとき、部下の心の中では何が起きているでしょうか。
- 否定された感覚: 「まだ話の途中なのに」「私の状況も知らないくせに」と、自分の努力や文脈を無視されたように感じます。
- 思考停止: 上司がすぐに正解を出すなら、自分は考えなくていい。指示待ち人間が完成します。
- 責任転嫁: 言われた通りにやって失敗したら、「上司の言った通りにしたのに」と言い訳ができます。
特に危険なのは、部下がまだ「アドバイスを受け入れる土壌」ができていない段階で種をまいてしまうことです。 相談に来る人の多くは、実は論理的な解決策(ソリューション)を求めているのではなく、まずは「不安の解消」や「現状の整理」を求めています。
この「相手の求めているモード」を判別せずに、あなたの引き出しから正解を取り出して投げつける行為。それが、部下が心を閉ざし、面従腹背(表面だけ従うふり)をしてしまう最大の原因なのです。
第2章:相手を動かす「6つのステップ」実践編
では、具体的にどうすればいいのでしょうか。 著者が提唱する6つのステップは、まるでカウンセリングのように相手の思考を整理していくプロセスです。明日からの面談や1on1で、このカンニングペーパーを心の中に用意しておいてください。
ステップ1:「解決」か「傾聴」かを判別する
まず最初に、「この相談は解決策を求めているのか、ただ聞いてほしいだけなのか」を見極めます。
- アクション: 「大変そうだね。今日は具体的なアドバイスが欲しい? それとも、まずは状況を聞いてほしい感じ?」と素直に聞いてみても構いません。聞いてほしいだけなら、アドバイスは不要です。共感して終われば、それが100点です。
ステップ2:相手の「やりたいこと」を聞く
アドバイスが必要な場合でも、まだあなたの意見は言いません。
- アクション: 「君はどうしたいと思っているの?」「理想的なゴールはどういう状態?」と、相手の意図を確認します。
ステップ3:「障害」を特定する
やりたいことがあるのにできていない。そこには必ず理由(障害)があります。
- アクション: 「それを実現する上で、今何が一番のネック(邪魔)になっている?」と聞きます。
ステップ4:本音が出るまで「待つ」
ここが正念場です。部下は最初、当たり障りのない理由(例:時間がなくて…)を言います。しかし、本質的な問題はもっと深いところ(例:実は〇〇さんが怖くて相談できない)にあることが多いのです。
- アクション: 「時間は重要だね。……他には何か気になることはない?」と沈黙を恐れずに待ちます。この「待ち」の時間に、部下は「実は……」と本音を吐き出します。
ステップ5:「原因」を自分で考えさせる
本音が出たら、解決策をあなたが言うのではなく、部下に考えさせます。
- アクション: 「なるほど、人間関係がネックだったんだね。じゃあ、今の状況を変えるには、何ができそうかな?」 自分で口に出した対策は、他人から言われた対策の何倍もの拘束力を持ちます。
第3章:最後の一押しが「最高のアドバイス」になる
ここまで来て(ステップ1〜5)、ようやくあなたの出番です。
部下は自分の状況を全て吐き出し、理解してもらい、自分で対策も考えました。心は完全にオープンになり、前向きな状態です。ここで初めて、あなたの言葉が「金言」として響きます。
ステップ6:自分の意見(アドバイス)を言う
ここでのアドバイスは、部下の考えた対策を後押しする「スパイス」程度で十分です。
- NGな言い方: 「それじゃ甘いよ。俺ならこうするね(マウンティング)」
- OKな言い方: 「その対策はすごくいいと思うよ。さらに付け加えるなら、事前にメールを一通入れておくと、もっとスムーズになるかもしれないね」
このように、相手の案を承認した上で、「もし私ならこうするかも」というアイディア(選択肢)として提示します。 ここまでステップを踏んでいれば、部下は「自分の考えを補強してくれる良いアイディアをもらった」と受け取り、素直に実行に移してくれるでしょう。
このプロセスを経ることで、部下は「上司に言われてやった」のではなく、「上司と壁打ちをして、自分で決めた方法を実行する」という当事者意識を持つようになります。
これこそが、人を育てるアドバイスの本質です。
まとめ
アドバイスとは、あなたが持っている正解を教えることではありません。相手の中にある答えを引き出し、実行する勇気を与えるプロセスです。
- すぐに答えを言わない: 正論は、受け入れる準備ができていない相手には「攻撃」になる。
- 6ステップを踏む: 判別 → 意図 → 障害 → 待つ → 自省 → 意見。
- 主役は相手: あなたの意見は、最後に添える「スパイス」でいい。
明日の部下からの相談。「ちょっといいですか?」と聞かれたら、まずは口をチャックして、「どうしたの? 君はどうしたい?」と聞くことから始めてみてください。その余裕ある態度が、部下の成長スイッチを押すはずです。
参考書籍:安達裕哉 著『仕事で必要な「本当のコミュニケーション能力」はどう身につければいいのか』

