結局、「聞き上手」の正体とは何ぞや?:職場の空気が変わる、信頼獲得の技術

コミュニケーション術

この記事は、安達裕哉氏の書籍『仕事で必要な「本当のコミュニケーション能力」はどう身につければいいのか』で紹介された核心的なノウハウ、「『聞き上手』の正体を知る」についてが、傾聴についてとても参考になりますので、実践的な記事としてまとめてみましたので参考にしてください。

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「あの人はコミュニケーション能力が高い」

そう聞いたとき、あなたはどんな人を思い浮かべるでしょうか?
立て板に水のごとく話す人?
ユーモアで場を盛り上げる人?
誰とでもすぐに仲良くなれる人?

実は、仕事の現場で本当に成果を出し、周囲から深く信頼される「コミュ強」の正体は、そうした「話し上手」ではありません。彼らの共通点は、徹底した「聞き上手」であることです。

しかし、ここで多くの人が勘違いをしています。「聞き上手=おとなしく話を聞く人」ではありません。この勘違いをしたままでは、どれだけ相手の話を聞いても信頼関係は築けません。

本記事では、書籍のエッセンスをベースに、仕事における「本当の聞き上手」の正体と、明日から使える具体的なアクションについて解説します。

第1章:「聞いているつもり」が信頼を損なう理由

なぜ、部下や同僚の話を聞いているつもりなのに、「話が通じない」「壁を感じる」という状況が生まれるのでしょうか。それは、あなたの聞き方が「尋問(情報収集)」になっているからです。

特に忙しいビジネスパーソンほど、効率を重視します。そのため、部下との会話でも無意識に以下のような態度を取ってしまいがちです。

  • (パソコン画面を見たまま)「で、あの件どうなった?」
  • (相手が言い訳し始めたら)「いいから、結論と数字だけ教えて」
  •  (話の途中で)「つまり、納期に間に合うのかどうかが知りたいんだ」

これらは全て、**「あなたが知りたい情報(進捗・結果)」を効率よく抜き取ろうとする行為**です。

これはコミュニケーションではなく、あなたの不安や管理工数を減らすための「作業」に過ぎません。相手は人間です。「この人は私に関心があるのではなく、私を『機能』としてしか見ていない」と直感的に察知します。

自分の都合ばかりを押し付ける聞き方は、相手の「信頼残高」を引き出す一方的な行為です。これでは、相手が心を閉ざし、必要最低限のことしか話さなくなるのも無理はありません。

 第2章:本当の聞き上手は「相手が言いたいこと」を聞く

では、本当の「聞き上手」は何をしているのでしょうか。
彼らは、「自分が聞きたいこと」を一度脇に置き、「相手が今、最も言いたいこと」に耳を傾けます。

相手が「本当に言いたいこと」とは何か?

仕事の現場において、相手が口に出したいことの多くは、単なる業務報告ではありません。その裏側にある**「文脈」や「感情」**です。

  • 「実は、他部署との調整がうまくいかずに困っている(苦労)」
  • 「この方法はリスクがあると思っている(懸念)」
  • 「自分なりにここまで工夫して頑張った(承認欲求)

例えば、進捗が遅れている部下がいたとします。
尋問型の人は「なぜ遅れているんだ? いつ挽回できる?」と問い詰めます。
しかし、本当の聞き上手は、「進捗が思わしくないようだが、何か困っていることはないか?」「やりづらい点はどこだ?」と、相手の「言い分(言い訳も含めて)」を聞こうとします。

「ガス抜き」が完了して初めて、人は動く

心理学的に言えば、人は自分の感情や言い分を十分に受け止めてもらえたと感じて初めて、理屈を聞く余裕が生まれます。相手の中に「わかってほしい」というマグマが溜まっている状態で正論をぶつけても、反発されるだけです。まず相手に話をさせ、ガス抜きをさせてあげる。

「そうか、そこが大変だったんだね」と受け止める。

このプロセスを経ることで、相手は「この人は敵ではない、味方だ」と認識し、結果としてあなたの指示やアドバイスを受け入れる土壌(信頼関係)が出来上がるのです。

第3章:明日から使える「3つの具体的アクション」

概念は理解できても、忙しい現場で実践するのは難しいものです。そこで、明日からすぐに使える、簡単な3つのステップを紹介します。

ステップ1:「用件」の前に「ワンクッション」置く

部下や同僚に話しかけるとき、いきなり「A社の件だけど」と切り出すのをやめましょう。まずは相手の状態(コンディション)に触れます。

  • 悪い例: 「例の資料、できた?」
  • 良い例: 「最近バタバタしてるけど、体調どう? ……(相手の返答)……そうか、それは大変だね。ところで、例の資料の進捗はどうかな?」

たったこれだけで、「あなたのことを気にかけている」というメッセージが伝わります。

ステップ2:沈黙を恐れず「吐き出させる」

相手が話し始めたら、たとえ要領を得ない説明でも、途中で遮ってはいけません。
「結論から言って」と言いたくなる気持ちをグッとこらえてください。相手が話に詰まって沈黙しても、すぐに助け舟を出さず、数秒待ってみましょう。
その沈黙の後に、「……実は、ここだけの話なんですが」と、本当の本音(重要なリスク情報など)が出てくることがよくあります。

ステップ3:「感情」をオウム返しする

相手の話を聞くときは、事実確認だけでなく、感情のワードを拾って返します。

  • 部下: 「クライアントからの要望が二転三転して、もう現場が混乱していて……」
  • あなた: 「そうか、混乱しているんだね。それはしんどい状況だね」

解決策を急ぐ必要はありません。相手が使った「感情の言葉」を繰り返すだけで、相手は「わかってもらえた」と強く感じ、安心します。

まとめ

仕事における「聞き上手」とは、情報を効率よく集めることではなく、「相手への敬意(リスペクト)」を行動で示すことです。

  1. 尋問しない:自分の知りたいことだけを聞き出そうとしない。
  2. 相手優先:「相手が言いたいこと(苦労や感情)」を先に吐き出させる。
  3. 信頼構築:話を聞くことは、相手の心に「信頼」を貯金する行為だと知る。

「まずは、相手の話したいことを聞く」。

このシンプルな習慣を一つ取り入れるだけで、職場のギスギスした空気は消え、驚くほどスムーズに仕事が回るようになります。明日の朝一番の会話から、ぜひ試してみてください。

 

参考書籍:安達裕哉 著『仕事で必要な「本当のコミュニケーション能力」はどう身につければいいのか