この記事は、安達裕哉氏の書籍『仕事で必要な「本当のコミュニケーション能力」はどう身につければいいのか』で紹介された核心的なノウハウ、「『聞き上手』の正体を知る」についてが、傾聴についてとても参考になりますので、実践的な記事としてまとめてみましたので参考にしてください。
「これ、やっておいて」
上司や先輩からそう仕事を頼まれ、頑張って仕上げて提出したら、こんなふうに言われた経験はありませんか?
「え、これだけ? もっと詳しく調べてくれないと困るよ」 あるいは逆に、 「なんでこんなに時間かかってるの? ざっくりで良かったのに」
これ、言われたほうはたまりませんよね。「最初に言ってくれよ!」と叫びたくなる瞬間です。しかし、立場が変わって自分が依頼する側になると、同じ過ちを犯してしまいがちです。
「全然こちらの意図通りのものが上がってこない」
「部下の仕事が遅い、または雑だ」
もしそう感じているなら、それは部下の能力不足ではありません。依頼する段階での「品質(クオリティ)の合意」が欠けていることが原因です。
本記事では、仕事のトラブルの9割を占める「期待値のズレ」を解消し、手戻りをゼロにするための「依頼の技術」について解説します。
第1章:なぜ「期待値のズレ」が起きるのか
仕事の依頼において最も危険な言葉。それは「いい感じでやっておいて」です。
依頼する側(あなた)の頭の中には、「このくらいの完成度で、このくらいの分量」というイメージ(正解)があります。しかし、それを言語化せずに「これお願い」とボールを投げてしまう。これを「丸投げ」と呼びます。
「丁寧」と「スピード」の板挟み
受け手である部下は、あなたの頭の中が見えません。そこで何が起きるかというと、「勝手な忖度」です。
- パターンA(真面目な部下): 「適当なものを出したら怒られる」と思い込み、時間をかけて完璧な資料を作ろうとする。
→ 上司の反応:「遅い! メモ程度で良かったのに!」 - パターンB(効率重視の部下): 「とりあえず早く出したほうがいい」と判断し、粗い状態で提出する。
→ 上司の反応:「雑だ! クライアントに出せないじゃないか!」
この悲劇は、双方が「良かれと思って」やっているからこそ厄介です。 原因は一つだけ。仕事に取り掛かる前に、「どの程度の完成度(品質)を目指すのか」というゴールテープの位置を握っていなかった。ただそれだけです。
第2章:仕事の「トレードオフ」を理解する
ビジネスにおいて、すべての仕事には「品質(Quality)」「納期(Delivery)」「コスト/労力(Cost)」のトレードオフが存在します。 「最高品質のものを、爆速で、手間をかけずにやれ」というのは物理的に不可能です。
品質を上げれば、時間がかかる。
時間を短縮すれば、品質は下がる(荒くなる)。
トラブルなく仕事を依頼できる「コミュ強」の上司は、このトレードオフを理解しており、依頼の段階で「今回は何を捨てていいか」を明確に指示します。
「今回は社内会議用だから、デザイン(見た目の綺麗さ)は捨てていい。その代わり、数字の正確さだけは100点にしてくれ」 「今回はブレストのたたき台だから、正確さは捨てていい。その代わり、スピード重視で30分で持ってきて」
このように「頑張らなくていいポイント」を明確に示された部下は、迷うことなく最短距離でゴールに向かうことができます。逆に、「完璧」を求めすぎると、部下はプレッシャーで手が止まり、結果として納期遅れや品質低下を招きます。
第3章:明日から使える「松・竹・梅」の依頼術
では、具体的にどう伝えればいいのでしょうか。 著者が推奨し、多くの優秀なマネージャーが実践しているのが、期待値をランク付けして伝える「松・竹・梅」メソッドです。
仕事を頼む際、必ず以下のどのレベルかを添えてください。
🌲 松(100点満点):対外・保存用
クライアントへの提出資料や、決裁文書など、ミスが許されない仕事です。
依頼フレーズ: 「これはお客様に出す資料だから『松』で頼む。誤字脱字はゼロ、デザインも会社のロゴ規定を守って完璧に仕上げて。時間は3日かけていいから」
🎍 竹(80点・実用重視):社内・定例用
チーム内の共有資料や、上司への報告など。見た目よりも中身が重要です。
依頼フレーズ: 「来週の部内会議用だから『竹』でいいよ。デザインは白黒の箇条書きで構わない。でも、最新の売上データだけは間違えないように確認してね」
🌸 梅(60点・たたき台):思考整理・速報
方向性の確認や、アイディア出しの段階。スピードが命です。
依頼フレーズ: 「まだ方向性が決まってないから、まずは『梅』で作って。手書きのメモをスマホで撮って送ってくれるだけでいい。その代わり、今から30分以内に頼む」
魔法の質問
魔法の質問:「何点を目指せばいいですか?」
もし、あなたが仕事を頼まれる側(部下)で、上司が丸投げしてきた場合は、こう聞いてください。 「これ、完成度は何点くらいを目指せばいいですか? 60点のたたき台でいいですか? それとも100点の完成品ですか?」
この一言があるだけで、手戻り(やり直し)のリスクは激減します。
まとめ
仕事上のコミュニケーション能力とは、難しい言葉を使うことではなく、**「お互いの『完了』の定義を合わせる力」**のことです。
- 丸投げ禁止: 「いい感じで」は禁句。自分の頭の中にあるゴールイメージを言語化する。
- 捨てる勇気: 「品質」と「スピード」のどちらを優先するか、最初に決める。
- 松竹梅で合意: 「たたき台(梅)」なのか「完全版(松)」なのか、ランクを指定して依頼する。
「とりあえずやってみて」と言う前に、「今回は『梅』レベルで、スピード優先で頼む!」と一言添える。 たったこれだけで、部下は安心して走り出せますし、上がってきた成果物はあなたの期待通りのものになります。明日の依頼から、ぜひ「品質の指定」をセットにしてみてください。
参考書籍:安達裕哉 著『仕事で必要な「本当のコミュニケーション能力」はどう身につければいいのか』

