フランスで生まれた「ユマニチュード」といえば、認知症緩和の為に用いられたケア方法の一つです。ご高齢の両親やパートナーの介護をしていて「なんだか最近悩んでいるようで元気がないな…」と思い、悩んでいる人もいるのではないでしょうか。
でもどうやって伝えていいのかわからなかったり、頑張って介護しているのに口喧嘩をしてしまったり意思の疎通ができないと、家族関係がうまくいかなくなってしまうことがあります。もしこんな介護のトラブルにぶち当たってしまったときにこそ、ユマニチュードを実践してみてください。
ユマニチュードとは具体的にどういうものなのか?取り入れ方も含め解説していきます。
1、報道特集「新たな認知症ケア ユマニチュードとは」より
高齢者だけに関わらず、認知症の人に効果的だと言われているのがフランス語で「人間らしさ」=ユマニチュードです。
「ケアとは具体的にどういうものなのか?」「そもそも人間とはなにか?」を問うための哲学だけでなく、介護の為により実践的に活かせるものです。
ユマニチュードは1979年にもともと体育学教師だったイヴ・ジネスト氏とロゼット・マレスコッティ氏は国の方針で病院で勤めているスタッフの、腰痛予防指導の為に派遣されます。
そこは病棟や診療科になり、病院のなかでも対応が難しい患者だったのです。
ベッドに寝かせられたままの状態になり、なかには拘束具で身動きが取れない高齢者もいました。そんな高齢者に対して機械的に介助している姿を目の当たりにしたのです。
この当時は、介護をする側の都合を優先させていた時代で、患者の気持ちなんてそこまで考えていなかった時代なのです。その患者と向き合うなかで見つけた実践的なケア方法がユマニチュードです。
説明するよりもまずはユマニチュードの動画をご覧になられた方がわかりやすいですね↓
動画「新たな認知症ケア「ユマニチュード」とは」より
【報道特集】TBS NEWS DIG Powered by JNN 2014年5月10日放送
説明文引用:高齢化とともに増え続ける認知症患者。
そのケアの困難さから、医療、介護の現場が疲弊する中、フランスで考案された「ユマニチュード」と呼ばれる手法が注目されている。患者の尊厳を保ち、人間らしさを尊重する「ユマニチュード」とは。新たなケアの現場を取材した。
2、ユマニチュードの基本的な考え方
ユマニチュードでは“生きているものは動く、動くものは生きる”と考えます。
その考え方の根本は「最期の日まで人間らしい存在であり続けることを支える」という哲学があります。そもそもの介護に対しての考え方に違いがあり、大きく分けて3つのレベルに分類されます。
- 回復
- 機能維持
- 最期まで寄り添う
いずれも、健康に害を及ぼさないのが絶対条件になります。
高齢者といっても一人ひとりが違った考え方があり、意思をもった人間です。身体の状態も違えば精神面にも違いがあります。そのため個々の健康状態やできる能力にあったケアを選び、実践していくことが大切です。
介護では高齢者に対して強制的にケアをしたり、大きな不安感を与えるものや、介護の為に身体を固定するなども論外の考え方です。
3、ユマニチュードで大切にしたい4つの柱
ユマニチュードは言語・非言語のコミュニケーションを基に、介護に必要な技術で活かすことができます。
ユマニチュードでは「見る」「話す」「触れる」「立つ」をケアの原則として考えています。
・見る
相手の目を見ると「私はあなたに関心があります」という気持ちを表現することができます。
まずは、患者さんに対して真正面で向き合い目を見つめることからはじめてみてください。
また目を直視しすぎると威圧感や攻撃的な印象になってしまうので注意してくださいね。
顔を近付けすぎるとなかには嫌がる患者さんもいます。伝えたい気持ちはあるものの、適度な距離を持って同じ目線で見つめるようにしてください。
・話す
高齢者の方には優しく耳元で話しかけてあげます。
相手に伝えたいこと、知っておいてほしいこと、介助の語りかけでもなんでもいいです。
普段は言葉にすることなく機械的に作業をしてしまいがちですが、伝えたいことは言葉にしたほうが患者さんの為にもなります。
なかには耳が遠くなり音が聞き取りにくくなると、大きな声で話さなくてはいけないこともあります。とはいえ大きな声で威圧的な話し方をしたり、怒鳴るような声をあげると、高齢者にとって心身の負担になってしまいます。
声をかけてすぐに返事が返ってこないにしても、常に言葉にして発信することに意味があります。するとちょっとした言葉が出てくることもありますよ。
・触れる
介護をしているときに、患者さんの身体に触れるのは当たり前のことです。
でも触れ方一つでも相手に与える印象は変わります。
例えば、高齢者に声がけもせずにいきなり身体に触れたり、強い力で腕を掴んだり身体を押すような態度を取っていると苦手意識や嫌悪感を持たれてしまいます。なかには「怖い」と思い、介護者との距離ができてしまうことも少なくありません。
高齢者に触れるときは手のひらを触れたり優しく触れるのを心掛けます。
患者さんに触れているときも、どんな気持ちになっているかな?と患者さんの気持ちを考えながら触れてケアをするようにしてください。
・立つ
介護者のなかには患者さんが立つことを諦めてしまいがちですが、1日のなかで数分でもいいので立つ機会を与えることも大切です。
例えば、歯を磨く時もそうですし、冷蔵庫からものを持ってくるなどちょっとしたことでいいのです。
本人が「立てる」と認識し、立つことに対しての恐怖心を持たなくなることが重要です。
介助者にとっても負担を軽減することになりますし、患者さんの将来を考えても立つことでできる選択肢は多くなります。怪我をして立つのが困難な場合ではない限り、寝たきり防止の為にも立つようにしてください。
4、ユマニチュードを実践する5つのステップとは
ユマニチュードは5つのステップを一続きのものとして考え実践します。
どうやったら心を開いてもらえるのか?そのためにも必要なことです。
患者さんのちょっとした変化にも気付き、思いやる気持ちを忘れずに接するようにしてくださいね。
1. 出会いの準備
患者さんに介護者が来たことを知らせる為の手順です。
特に相手のスペースである居室に入るときに意識するべきことです。
そもそも個室の場合もあれば仕切りで仕切られている部屋の場合もあります。
仕切りの場合はゆっくりとした口調で丁寧に言葉を伝えます。
いきなりカーテン越しから大きな声で呼び止めるのは、相手をびっくりさせてしまいます。
手順として扉を3回ノックして3秒待つ→反応がないときは何度も繰り返します。
部屋に入るときは1回ノックをして部屋に入ります。
患者さんにとっても居室に入るまでの心の準備の時間になりますし、相手を尊重していることにもなります。
2. ケアの準備
介護をスムーズに行う為の告知に当たります。
また、ケアをかける準備はできるだけ短くしたほうが、お互いの関係が良好な状態で保つことができます。目安としては20秒~長くても3分程度で効率よく準備しましょう。
また、患者さんに告知するときに、ストレート過ぎる表現は控えるようにしてください。
例えば「おむつを変えますね~」とわかっていることでも言葉にすると、患者さんにとっては嫌悪感を感じてしまうこともあります。
そもそも介護をしてもらうことを嫌がる人もいるので、どんな気持ちでいるのかをしっかりと考え向き合っていかなくてはいけません。
3. 知覚の連結
「見る」「話す」「触れる」で2つ以上を同時に行う必要があるのが「身体介助」です。身体を優しく拭きながら「気持ちいいですね~」と話しているのに視線は全く違うところを見ていたり感情がこもっていないような話し方は相手に伝わってしまいます。
「本当は興味がないんだな」「形だけいっているだけなんだな」とわかってしまうのです。介護者の言動の一つ一つがコミュニケーションであることを今一度頭に入れておくようにしましょう。
4. 感情の固定
患者さんと話をするときは常にポジティブな発言を心掛けることが大切です。また、介護者がやってくれたことに対して喜んでくれたことをあえて言葉にして伝えます。
「ご飯食べて美味しかったですね」「たくさんお話できて楽しい時間でしたね」「身体を拭いてすっきりとして気持ちよかったね」など言葉にして伝えることによって、同じ気持ちを共感できるようになります。
お互いの信頼関係がより強くなり、お互いの関係を近づけることができます。感情にムラがあったりネガティブな発言は患者さんを不安にさせるので注意してください。
5. 再会の約束
次にまた会うときにお互いに対してポジティブで前向きな考えを残せるように、「また会えるのを楽しみにしています」「またお家にお伺いしますね!」「またお話できるのを楽しみにしています」など次の約束をします。
認知症の場合そのことを覚えていかなかったとしても、再会の約束はとても重要です。これから何度も顔を合わせることになるからこそ、再会の約束は忘れずに行うようにしてくださいね。
必ずプラスになるはずです。
5、まとめ
高齢者の介護で取り入れられているユマニチュードですが、決して難しいものでありません。
実際にその流れや方法を見てみると高齢者の方とのコミュニケーションをいかに引き出すのか、真剣に向き合うことの大切さを教えてくれます。
ついつい機械的な対応になってしまう介護も、人とのコミュニケーションとして考えると見方が変わってきます。
高齢者も一人の人間であり認知症だからといって作業的な対応になってはいけないのです。尊重するべき相手であり、思いやりを持って接していくことが必要です。