No.97 ゴールの解像度を合わせて、仕事の「手戻り」をゼロにする依頼方法

コミュニケーション術

部下や同僚から上がってきた成果物を見て、「え、求めていたのはこれじゃないんだけど……」と落胆した経験はないでしょうか。あるいは逆に、自分が必死に作った資料に対して、上司から「こんなに作り込まなくてよかったのに」と言われ、徒労感に襲われたことはありませんか?

こうした悲劇的なすれ違いの原因は、個人の能力不足ややる気の問題ではありません。そのほとんどが、業務開始前における「期待値(ゴールイメージ)のズレ」に起因しています。

仕事の依頼において、最も避けるべきは「とりあえず、いい感じで進めておいて」という曖昧な丸投げです。依頼する側の脳内にある「正解」を言語化せずにボールを投げれば、受け手は自分の物差しで勝手に忖度して走り出します。結果として、双方が不幸になる「やり直し」が発生するのです。

「品質」と「スピード」のトレードオフを支配する

ビジネスの鉄則として、成果物の「品質(クオリティ)」と「スピード(納期)」はトレードオフの関係にあります。時間をかければ細部まで磨き上げられますが、スピードは落ちます。逆に、爆速で仕上げようとすれば、どうしても粗さは残ります。

トラブルを防ぐために不可欠なのは、依頼の瞬間に「今回は、品質とスピードのどちらを優先するフェーズなのか」を明確に握っておくことです。

 3段階の「完成度基準」を使い分ける

具体的なアクションとして、仕事を依頼する際は、求めるアウトプットのレベルを以下の3段階(A案・B案・C案)に分類し、明確に指定することをお勧めします。

1. 【A案:対外向け・完品レベル(品質最優先)】
顧客への提案資料や決裁文書など、ミスが許されない場面です。 「これはクライアントにそのまま提出する資料だ。だから時間は3日かけていい。その代わり、誤字脱字はゼロ、デザインやフォントも規定通りに完璧に仕上げてほしい」と伝えます。
ここでは「スピード」を犠牲にしてでも「品質」を求めます。

2. 【B案:社内向け・実用レベル(論理優先)】
部内会議やチーム共有など、体裁よりも中身が問われる場面です。 「社内会議用だから、デザインは白黒の箇条書きで構わない。見栄えに凝る必要はないが、数字の根拠と論理構成だけは正確にしてほしい。明日の昼まで頼む」と伝えます。
ここでは「見栄え」を捨てさせ、「正確さ」にリソースを集中させます。

3. 【C案:たたき台・速報レベル(スピード最優先)】
方向性の確認やアイディア出しの初期段階です。 「方向性が合っているか確認したいだけだから、手書きのメモや箇条書きでいい。その代わり、今から30分でラフ案を見せてほしい」と伝えます。
ここでは「完成度」を捨てさせ、「速さ」と「フィードバックの機会」を優先します。

最初の「1分」が数時間のロスを防ぐ

このように、着手する前に「どの山を、どのルートで登るのか」を合意するだけで、部下は迷いなく最短距離を走ることができます。

「一生懸命作ったのにやり直し」という事態を防ぐことは、相手の時間とモチベーションを守るための、上司としての最低限のマナーであり、最も効果的な生産性向上策なのです。