「何度言っても部下が動いてくれない」「指示待ち人間ばかりで困っている」——そんな悩みを抱えるリーダーは少なくありません。
実は、部下が動かない理由は「能力」や「やる気」の問題ではなく、リーダーの**「指示の出し方」**にあるのかもしれません。人間には、特定の言い回しや状況に対して、無意識に行動を起こしたくなる心理的なスイッチがあります。
世界的名著『影響力の武器 実践編: 「イエス!」を引き出す60の秘訣』から、明日から職場で使える「部下の自発性と行動力を引き出す心理テクニック」を徹底解説します。
1. 「ラベル貼り」でセルフイメージを書き換える(秘訣14)
人は、「あなたは〇〇な人ですね」と言われると、無意識のうちにそのイメージにふさわしい行動を取ろうとする心理が働きます。これを**「ラベリング手法(ラベル貼り)」**と呼びます。
【実践!言葉の魔法】
例えば、ミスが多い部下に対して「もっと注意しろ」と叱っても効果は薄いです。そうではなく、過去に一度でもうまくいった場面を捉えて、こう伝えてみてください。
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Before: 「もっと責任感を持って仕事をしてくれ」
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After: 「君は、一度引き受けたことは最後までやり遂げる責任感の強さを持っているよね。今回のプロジェクトも、その力を期待しているよ」
このように、望ましい資質の「ラベル」を先に貼ってしまうのです。すると部下は「自分は責任感が強い人間なんだ」というセルフイメージを持ち、そのイメージを壊さないように(一貫性を保つために)自発的に努力し始めます。
2. どんな些細な指示にも「理由」を添える(秘訣30)
心理学者のエレン・ランガーの有名な実験に「カチッ・サー」という現象があります。人は、「〜なので(Because)」という理由を添えられるだけで、その内容がどれほど些細なものであっても、承諾率が劇的に上がります。
【実践!理由の付け足し】
指示を出す際、「とにかくやっておいて」と結果だけを求めていませんか?
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Before: 「この資料、明日までにコピーしておいて」
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After: 「会議で急遽データが必要になったので、この資料を明日までにコピーしておいてくれるかな?」
たとえ「仕事だから当たり前」という理由であっても、言葉にして添えることが重要です。「なぜこれが必要なのか」という理由を知ることで、部下は「尊重されている」と感じ、納得感を持って動くことができるようになります。
3. 「小さなはい」から始め、書面に残させる(秘訣13, 15, 16)
人は、一度「はい」と言ったり、自分の意思を表明したりすると、その後の要求にも従いやすくなる「一貫性の原理」を持っています。特に、**「自分の言葉で書く」**という行為は、行動を縛る強力な力になります。
【実践!コミットメントの引き出し方】
指示を出した後に、「わかった?」と聞くだけでは不十分です。
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質問で「はい」を引き出す: 「このタスクの重要性は理解してくれたかな?」→(はい)
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相手に宣言させる: 「いつまでに終わらせられそう?」と問い、部下自身の口から「金曜の15時までには」と答えさせる。
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メモを取らせる: 「念のため、今決めた期限をメール(またはチャット)で送っておいてくれる?」と依頼する。
自分で宣言し、それを文字にした事実は、部下にとって「守らなければならない約束」へと変わります。上司に押し付けられた期限よりも、自分で決めて書いた期限の方が、達成率は遥かに高まります。
4. 上司の「弱点」と「過失」が信頼を生む(秘訣33, 35)
完璧な上司を演じようとすると、部下は萎縮し、ミスを隠すようになります。しかし、あえて自分の失敗や弱点を認めることで、上司としての**「権威」と「人間味」**が同時に高まるという法則があります。
【実践!誠実なリーダーシップ】
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自分のミスを認める: 「ごめん、先日の指示は私の判断ミスだった。混乱させて申し訳ない」
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あえて弱みをさらけ出す: 「実は私はITの細かい設定が苦手なんだ。だからこそ、君のそのスキルを頼りにしているよ」
ミスを認める上司は、部下から見て「正直で信頼できる人」と映ります。また、上司が失敗を認める文化があれば、部下も「失敗を恐れず挑戦し、ミスがあればすぐに報告する」という自発的な姿勢を身につけるようになります。
5. 「負の社会的証明」を避ける(秘訣4)
「みんなやっていないから、君も気をつけなさい」という言い方は、実は逆効果です。これを「負の社会的証明」と呼び、「みんなやっていない=自分もやらなくていい」という正当化を与えてしまうからです。
【実践!ポジティブな視点への変換】
好ましくない行動を注意するときこそ、**「できている少数派」や「目指すべき姿」**に焦点を当てます。
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Before: 「最近、提出物の期限を守らない人が増えていて困る。君はちゃんとやってくれよ」
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After: 「**チームの8割のメンバーは、期限内に最高のパフォーマンスを出してくれている。**君もその一員として、期待以上のものを出してくれると信じているよ」
「大多数がダメだ」と強調するのではなく、「望ましい行動が標準である」という空気を作ることが、部下の行動を軌道修正する近道です。
6. 「アドバイス」を求め、共犯者にする(秘訣54)
指示を聞いてもらうための最も強力な方法の一つは、逆に部下に**「アドバイスを求める」**ことです。「意見」ではなく「アドバイス」という言葉を使うのがポイントです。
【実践!共創のコミュニケーション】
新しいプロジェクトの指示を出す際、一方的に命令するのではなく、こう相談してみてください。
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アクション: 「今回のプロジェクトを成功させるために、現場を一番知っている君からアドバイスをもらいたいんだ。どう進めるのがベストだと思う?」
アドバイスを求められた部下は、「自分の意見が反映されたプロジェクトだ」という当事者意識(コミットメント)を持ちます。自分でアイデアを出したプロジェクトに対して、人は驚くほど自発的に、かつ熱心に取り組むようになります。
まとめ:明日からのアクションプラン
部下への指示を「命令」から「影響」へと変えるために、明日の朝から以下の3つを試してみてください。
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朝一番に「ラベル」を貼る: 部下の強みを一つ見つけ、「〇〇な君だから助かるよ」と伝える。
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指示に「〜なので」を付ける: どんな小さな雑務でも、理由をセットにして依頼する。
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「どう思う?」とアドバイスを求める: 自分の案を押し通す前に、一度部下の知恵を借りる。
『影響力の武器』が教える秘訣は、相手をコントロールするための小細工ではありません。部下が「この人のために、この仕事のために動きたい」と思える心理的土壌を整えることです。
あなたが発する言葉をほんの少し変えるだけで、チームの空気は劇的に変わり、部下たちは見違えるほど自発的に動き出すはずです。
参考文献:影響力の武器 実践編:「イエス! 」を引き出す60の秘訣
ロバート・B・チャルディーニ他(著)



