前回記事では、部下の脳を「解決モード」に切り替えるマインドセットについてお伝えしました。しかし、いざ部下を前にすると「次は何を聞けばいいんだろう?」と迷ってしまうこともあるはずです。
そこで活用したいのが、世界中のプロコーチが信頼を寄せる対話のフレームワーク「GROW(グロウ)モデル」です。この記事では、GROWモデルの4ステップに沿った質問の基本構成と、会話が詰まった時に現状を打破する「12個の魔法のフレーズ」をすべて網羅して解説します。
1. コーチングの地図「GROWモデル」とは
GROWモデルは、対話の流れを4つのフェーズに分けたものです。この順番通りに質問を投げかけることで、相手の思考は「混沌とした現状」から「具体的な行動」へと整理されていきます。
| フェーズ | 意味 | 目的 |
| G:Goal | 目標の明確化 | どこへ向かいたいのか、目的地を決める |
| R:Reality / Resource | 現状と資源の把握 | 今はどこにいて、何(武器)を持っているか知る |
| O:Options | 選択肢の拡大 | どんなルートがあるか、アイデアを出し切る |
| W:Will / Way Forward | 意志の確認と実行 | 最初の一歩として、明日何をやるか決める |
2. 各ステップの基本質問リスト

① Goal:目的地をセットする(目標の明確化)
目的地が決まっていない旅は迷走します。「本当はどうなりたいのか」を徹底的に言語化させます。
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「今日、この時間でどんな結論が出せれば最高かな?」
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「3ヶ月後、このプロジェクトがどうなっていたら『大成功』と言える?」
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「それが実現した時、君はどんな表情をしていると思う? 周りには誰がいる?」
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「その目標を達成することは、君のキャリアにとってどんな意味がある?」
② Reality / Resource:現在地と武器を確認する(現状と資源の把握)
問題を客観視し、同時に「すでに持っているもの」に光を当てて自信を回復させます。
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「今の状況を10点満点で表すと、何点くらいかな?」
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「(その点数に対して)すでに積み上げられている『プラス分』は何だと思う?」
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「これまで、似たような壁を乗り越えた時はどうやって解決した?」
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「協力してくれそうな人や、活用できる社内のリソースは何がある?」
③ Options:ルートを広げる(選択肢の拡大)
「できない理由」を一旦脇に置き、脳のブレーキを外してアイデアを出し切ります。
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「目的を達成するために、どんな方法が考えられる? 突拍子もないことでもいいよ」
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「もし、尊敬する〇〇さんなら、この状況でどんな一手を打つと思う?」
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「予算や時間が2倍あるとしたら、何を試してみたい?」
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「逆に、あえて今までとは『真逆』のやり方をするとしたら何がある?」
④ Will:一歩を踏み出す(意志の確認と具体的な行動)
最後は、精神論ではなく「スケジュール」に落とし込みます。
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「出した選択肢の中で、一番ワクワクする(または現実的な)のはどれ?」
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「最初の一歩として、48時間以内に着手できることは何?」
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「それを実行する上で、何か邪魔になりそうなことはある? どう対処する?」
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「私がサポートできることはあるかな?」
3. 【保存版】困った時の「魔法のフレーズ12選」
対話がループしたり、相手が「わかりません」と黙り込んでしまった時に、流れを劇的に変える12の問いかけです。
【思考の枠を外す】
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「他には?」
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最もシンプルで強力な問い。2つ目、3つ目に出る答えにこそ、本質的なアイデアが隠れています。
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「もし、答えを知っているとしたら、それは何だと思う?」
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「わからない」という思考停止を打破します。「仮定」にすることで脳のロックが外れます。
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「もし、100%成功すると分かっていたら、何をしたい?」
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失敗への恐怖を取り除き、本来の願望や大胆な策を引き出します。
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「もし、尊敬するあの人なら、どう動くと思う?」
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自分の視点から離れ(モデリング)、客観的で冷静な判断を促します。
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【視点を変える・広げる】
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「10点満点にするために、あと1点足すとしたら何が必要?」
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「全然ダメ」と落ち込む相手に対し、不足分ではなく「具体的な改善点」へ意識を向けさせます。
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「1年後の成功している自分から、今の自分にアドバイスするなら?」
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時間軸を飛ばすことで、目先の小さな悩みを相対化させます。
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「逆に、これだけは『絶対にやりたくない』ことは何?」
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やりたいことが見えない時、拒絶したいものを明確にすることで進むべき道が見えてきます。
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【本質と可能性に触れる】
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「それ(目標)が手に入ることで、本当に得たいものは何?」
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手段の目的化を防ぎ、真のモチベーション(価値観)を再確認させます。
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「その『悩み』は、君に何を準備しろと教えてくれているのかな?」
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不安や悩みを「敵」ではなく、自分を守るための「有益なサイン」として捉え直させます(リフレーミング)。
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「今までで、一番うまくいった時はどうやって乗り越えた?」
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過去の成功体験から、本人も忘れている「武器」を再発見させます。
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「この1週間で、少しでも『良くなった』と思えることは何?」
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小さな変化に光を当て、自己効力感を高めて停滞感を打破します。
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「明日、10分だけ作業するとしたら何ができる?」
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心理的ハードルを極限まで下げ、行動への抵抗感をゼロにします。
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4. 現場で成功させるための「3つの鉄則」
どんなに良い質問を投げても、以下の3点が欠けていると効果は半減します。
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「相づち」と「要約」で安心感を作る
質問攻めは「尋問」になります。相手が話したら「なるほど、それは大事な視点だね」と一度受け止め、「つまり、〇〇という理解で合ってる?」と要約を挟みましょう。
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沈黙を「ギフト」として扱う
良い質問の後には、必ず沈黙が訪れます。それは相手の脳がフル回転している「黄金の時間」です。あなたが先に口を開いて、その時間を奪わないようにしてください。
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自分の意見を「質問」に混ぜない
「〇〇した方がいいんじゃない?」というのは質問ではなく「誘導」です。相手が自分で答えを見つける喜びを奪わないよう、純粋な好奇心を持って問いかけましょう。
まとめ:このカタログを「お守り」にする
コーチングは、一言一句完璧にやろうとする必要はありません。まずは部下との面談の際、このページをタブレットや資料の端に置いておき、「迷ったらここから一つ選んで聞く」というスタンスで始めてみてください。
あなたが「問い」を変えるだけで、部下は自ら答えを見つけ、自ら動き始めます。その瞬間の感動こそが、リーダーとしての最大の報酬になるはずです。
次のステップ:
対話が終わり、部下がいよいよ動き出しました。では、そのコーチングが「本当に成果につながったか」をどう判断すればいいのでしょうか?
「効果的な質問」シリーズ最終回となる記事では、「行動変容を読み取る3つの指標と、リーダー自身の振り返り術」を詳しく解説します。




