建設業界の「設計・積算職」の方々に向けた実践ガイドを作成しました。
設計や積算は、数ミリのズレや数円の単価の差が、現場の安全性や会社の利益に直結する非常に緻密な仕事です。しかし、営業担当者や施主、あるいは現場監督からの依頼は、得てして「曖昧」なもの。その曖昧さを放置せず、正確な「深層構造(真実)」へと引き戻すためのメタモデル活用術を解説します。
1. はじめに
建設プロジェクトの成功は、上流工程である「設計・積算」の正確さに懸かっています。しかし、コミュニケーションにおいては、図面のような「正確な規格」が存在しません。
例えば、営業から「いい感じでコストを抑えた設計にして」と言われたとき、あなたの脳内と営業の脳内では、まったく別の「いい感じ」が描かれています。このように、人が体験や考え(深層構造)を言葉(表層構造)に変換する際、脳は必ず3つのフィルターを通します。
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省略(Deletion): 必要な法規、条件、単価基準などを言わずに指示する。
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歪曲(Distortion): 「安くすれば受注できる」「工期が短いから無理だ」といった思い込み。
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一般化(Generalization): 「現場はいつも図面通りにやらない」という決めつけ。
メタモデルは、これらのフィルターによって隠された「設計根拠」や「積算条件」を質問によって復元し、ミスや手戻りを防ぐための羅針盤となります。
2. 「省略」を復元する
多忙な現場監督や営業担当者は、専門家であるあなたに対して「言わなくてもわかるだろう」という甘えから、重要な情報を削ぎ落としてしまいます。
ケース1:不特定名詞(参照指標の欠落)
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相手のセリフ: 「今回の案件、標準的な仕様で積算しておいて」
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現場のズレ: 自社の標準か、地域慣習の標準か、あるいは特定の施主にとっての標準かが不明。
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メタモデル質問術: 「承知しました。確認ですが、ここで言う標準とは、自社のカタログスペックの第1種のことでしょうか? それとも、施主様が前回指定された仕様のことでしょうか?」
ケース2:比較の省略(基準が曖昧)
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相手のセリフ: 「この部分、もっと安価な部材に差し替えられない?」
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現場のズレ: 何と比較して安いのか、耐久性や意匠性をどこまで犠牲にしていいのかが不明。
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メタモデル質問術: 「コストダウンですね。現在採用している〇〇(部材名)と比較して、何割程度の削減を目標にされていますか? また、機能面でここだけは譲れないという基準はありますか?」
ケース3:不特定動詞(プロセスが曖昧)
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相手のセリフ: 「納まりについて、現場と調整しておいて」
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現場のズレ: 意見を聞くだけでいいのか、こちらの設計を納得させるのか、変更を前提とするのかが不明。
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メタモデル質問術: 「調整ですね。具体的に、どのような着地点を想定して話し合えばよろしいでしょうか? 設計変更の余地はどの程度ありますか?」
3. 「歪曲」を解きほぐす
経験豊富なベテランほど、過去のパターンを現在の案件に無理やり当てはめる「歪曲」が起こりやすくなります。
ケース1:因果関係の取り違え
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相手のセリフ: 「こんな複雑な図面を書いたら、現場が混乱して工期が遅れるよ」
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現場のズレ: 図面の複雑さ(事実)と、工期の遅れ(予測)を直結させ、設計の工夫を否定している。
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メタモデル質問術: 「ご懸念はもっともです。図面が複雑であることと、現場が混乱することが、どのように結びつくとお考えでしょうか? 施工図で補足すれば解決できる可能性はありますか?」
ケース2:読心術(マインドリーディング)
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相手のセリフ: 「この見積金額を出したら、施主は絶対に怒り出すぞ」
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現場のズレ: 提示もしていないのに、相手の反応を勝手に予測して積算を弱気にさせている。
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メタモデル質問術: 「施主様のご期待に応えたいですね。どのような根拠から、施主様がこの金額に否定的な反応をされると判断されたのでしょうか?」
ケース3:判断の根拠の消失(ロスト・パフォーマティブ)
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相手のセリフ: 「設計職なら、法規ギリギリを攻めるのが当たり前だ」
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現場のズレ: 誰がいつ決めたかわからない「当たり前」を押し付け、リスク管理を軽視させている。
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メタモデル質問術: 「攻めの姿勢ですね。その『当たり前』は、わが社のどの設計方針、あるいはどの成功事例に基づいたものでしょうか? 安全率をどこまで確保すべきか再確認させてください」
4. 「一般化」の限界を広げる
「いつもこうだ」「できるはずがない」という一般化は、新しい工法やコスト削減のアイデアを殺してしまいます。
ケース1:普遍数量詞(いつも、すべて、絶対)
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相手のセリフ: 「あのメーカーは、いつも納期が遅れるから使えない」
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現場のズレ: 過去の数回の遅延を「永遠に」だと決めつけ、選択肢を狭めている。
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メタモデル質問術: 「確かに以前は苦労しましたね。一度も、納期通りに納品されたことはありませんでしたか? 最近の体制を確認してみる価値はありませんか?」
ケース2:可能性の限定(〜できない)
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自分の思い込み: 「この予算内では、絶対に希望の意匠は実現できない」
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現場のズレ: 自分の経験の範囲内で「不可能」という枠を作り、代替案の探索を止めている。
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メタモデル質問術(セルフ): 「何が、実現を妨げているのか? 構造計算をやり直したり、別の部材を組み合わせたりしても、本当に1%の可能性もないのだろうか?」
ケース3:必要性の限定(〜すべき、〜してはいけない)
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相手のセリフ: 「積算担当は、現場の都合を優先して数字を出すべきだ」
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現場のズレ: 利益率や安全性を度外視して、現場のやりやすさだけを強要している。
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メタモデル質問術: 「現場をスムーズに進めるのは大切ですね。現場の都合を優先し、利益率を下げた場合、会社全体としてどのような結果を招くとお考えですか?」
5. 理想のサービスへのプロセス
設計・積算職にとっての「理想の状態(アウトカム)」とは、**「安全性、コスト、顧客要望が最適に調和し、現場が迷いなく施工できる」**状態です。
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望ましい状態(アウトカム)の明確化: 「この設計で、誰が、どのように喜ぶのか?」というゴールを具体化する。
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現在の状態を明確にする: 指示の曖昧さ、不足しているデータ、予算の制約などの「現在のステータス」を冷静に把握する。
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ギャップの発見と背景の解消: なぜ理想の設計ができないのか? その背景にある「省略・歪曲・一般化」をメタモデルで発見する。
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解決策と行動プラン: 復元された正確な情報を元に、設計変更や単価交渉のプランを立てる。
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試行錯誤の継続: パレートの法則に基づき、**「重大なトラブルの8割を引き起こす、2割の曖昧な指示」**に集中してメタモデルを適用する。
6. 明日から使える!建設業(設計・積算)のための「問いかけ」3カ条
図面を引く前、数字を叩く前に、この3つの「問い」を相手に投げてみてください。
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「具体的に、どの数値を基準にすれば、後から変更になりませんか?」 (省略された条件を復元し、設計の「手戻り」を防ぐ)
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「その『無理だ(できない)』という判断の、具体的な根拠を教えてください」 (歪曲された思い込みを事実に引き戻し、新しい工法や代替案の可能性を開く)
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「今回に限って、そのルールが当てはまらないケースはありませんか?」 (一般化された慣習を疑い、目の前の案件に最適な「個別解」を見つけ出す)
設計・積算におけるメタモデルは、相手の矛盾を突くためのものではありません。「不確かな言葉を、確かな図面と数字に変える」ための、プロの職人としての誇りある質問なのです。
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