「自分を変えたいのに、三日坊主で終わってしまう」 「部下を説得しようとしても、理屈で返されて動いてくれない」
仕事や対人関係でこのような壁にぶつかったとき、私たちはついつい「意志の力」や「もっと正しい論理」で解決しようとしがちです。しかし、実はそこに大きな落とし穴があります。
NLP(神経言語プログラミング)心理学では、私たちの行動や変化を阻む最大の要因は、意識(顕在意識)という名の「門番」にあると考えます。
今回は、この門番を上手にかわし、95%の力を秘めた「無意識」を味方につけて、明日から仕事の成果を劇的に変える方法を解説します。
1. 意識は「門番」、無意識は「エンジン」
私たちの生活の大部分は無意識に支配されています。私たちが、自分の行動や体の部位の一つ一つを意識して行えているのはわずか数%だと言われています。私たちの意識で気づくことができない無意識レベルのパターンが存在していることになります。
日常生活を送っている多くの行動に対する反応は、無意識での行動で自動選別されているといっても過言ではありませんから、自分自身または相手に対して、効果的な変化を作り出すために無意識を活用することが必要になります
私たちの心は、よく「氷山」に例えられます。
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意識(顕在意識):約5% 論理、分析、批判、意思決定を司ります。いわば、変化を監視する「門番」です。
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無意識(潜在意識):約95% 感情、習慣、記憶、身体機能、直感を司ります。私たちの行動を突き動かす巨大な「エンジン」です。
私たちが「明日から早起きしよう!」と5%の意識で決めても、95%の無意識が「今のまま寝ていたい」という現状維持を選べば、エンジンには勝てません。さらに厄介なことに、意識には「今の自分を守る(エゴの正当化)」という役割があるため、新しい提案や変化に対して、「それは難しい」「前例がない」と検閲(チェック)を入れてブロックしてしまうのです。
「無意識」を活用することが必要であるのに、そこには「意識(=顕在的な意識)」という大きな壁が立ちはだかります。これが問題なのです。
意識(=顕在意識)は、門を守る門番のようなもの
そして、意識はエゴを守ろうとし、今までの判断の正当性を主張し、現状を維持しようとしますから、効果的な変化を作り出すために、この顕在的な意識に捕まらないように、上手く回避し、直接、無意識に働きかけることが大切なポイントとなります。
2. 変化の鍵は「検閲のバイパス」にある
自分や相手に変化を促すためには、この頑固な門番(意識)を一度「休憩」させ、直接エンジン(無意識)にメッセージを届ける必要があります。これをNLPでは**「意識の検閲をバイパスする」**と言います。
門番を休憩させるための代表的な戦略は2つあります。
戦略①:意識を「退屈」させる
意識は論理的で細かいことに反応しますが、単調なことにはすぐ飽きてしまいます。
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ビジネス例: 会議の冒頭で、ゆっくりとしたトーンで「今日はみなさんの貴重な時間をいただき感謝しています。リラックスして、ただここに座っている感覚を味わってください……」といった、当たり前で反論の余地がない情報を、一定のリズムで伝えます。すると相手の意識は「あ、ここは安全だ。特に分析する必要はないな」と判断し、門番が居眠りを始めます。
戦略②:意識を「圧倒(オーバーロード)」する
逆に、一度に大量の情報を流し込んだり、意外な行動をしたりして、意識の処理能力をパンクさせる方法です。
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ビジネス例: 複雑なデータを一気に提示した直後に、「つまり、本質的に大切なのはワクワクすることですよね?」と、シンプルで感情に訴える言葉を投げます。門番がデータの処理に追われている隙に、本質的なメッセージを無意識へ滑り込ませるのです。
3.「催眠(トランス状態)」は日常の中にある
「催眠」と聞くと、怪しい術のように感じるかもしれませんが、NLPでの催眠(トランス)とは、単に「意識が内面に向き、無意識へのアクセスが開かれた状態」を指します。一言で表現すると意識が内面に向かっている状態です。つまり、無意識のレベルで変化が可能な状態になるということを意味します。
実は、あなたも毎日トランス状態に入っています。
- 面白い本や映画に没頭して、周りの音が聞こえなくなる。
- 車の運転中、気づいたら目的地に着いていた。
- スポーツで、何も考えずに体が勝手に動く「ゾーン」の状態。
このとき、意識の門番は横にどいていて、無意識がダイレクトに情報を処理しています。この「深く集中しているが、心は開いている」状態を意図的に作り出すのが、コミュニケーションの達人です。
4. 明日から使える!トランス誘導の2ステップ
相手の無意識に肯定的な影響を与えるための、実践的なプロセスをご紹介します。
ステップ1:トランス状態を作る(ペーシングと誘導)
まずは相手の門番を安心させることが先決です。
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トーンを落とす: いつもより少し低い声で、ゆっくり、落ち着いたリズムで話します。
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体感覚へ誘導する: 「この椅子の座り心地はどうですか?」「外の風の音を感じてみてください」など、今この瞬間の五感に意識を向けさせます。これにより、意識の焦点が「外(批判・分析)」から「内(感覚・リサーチ)」へと移ります。
ステップ2:トランス状態を活用する(肯定的な暗示)
相手の表情が緩んだり、呼吸が深くなったりしたら(トランスの兆候)、本来伝えたいメッセージを投げかけます。
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メタファー(比喩)を使う: 「これは、砂漠でオアシスを見つけるような体験になるかもしれません」といった抽象的な物語を伝えると、相手の無意識は自分なりの「正解」を内面から探し始めます。
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肯定的な前提: 「もし、このプロジェクトが成功したあとの、チームの笑顔を想像してみるとしたら……」と、成功が当たり前であるかのような問いかけをします。
5. まとめ:無意識を味方にする者が、成果を制する
コミュニケーションの目的は、相手に勝つことではなく、相手(あるいは自分)の無意識が持つリソースを引き出し、望ましい変化を作り出すことです。
意識という門番と正面衝突するのはやめましょう。
- 相手の状態を観察する。
- 声のトーンやリズムを整え、門番をリラックスさせる。
- 無意識が喜ぶような、ポジティブなイメージを届ける。
明日からの会議や面談で、まずは「自分の声を少しだけ低く、ゆっくりにしてみる」ことから始めてみてください。相手の反応が変わる瞬間、あなたは無意識という巨大なエンジンの鍵を手に入れているはずです。
今回のポイント
- 意識は現状を維持しようとする門番である。
- 無意識は変化と行動を司るエンジンである。
- 退屈や圧倒によって門番をバイパスできる。
- 五感への問いかけで、日常的なトランス状態を作れる。
- 変化は常に無意識のレベルで起きる。



