角を立てずに「NO」と言い、想いを届ける伝え方|自分も相手も大切にするアサーティブ・コミュニケーション術

コミュニケーション術

自分も相手も大切にしながら、ビジネスの現場で円滑に関係を築くための「アサーティブ・コミュニケーション」の実践ガイドを作成しました。

「言いたいことが言えずに飲み込んでしまう」「つい感情的に伝えて後悔する」といった悩みを解決し、明日から自信を持って対話ができるような具体的なメソッドを解説します。

仕事を進める中で、こんな風に感じることはありませんか?

「急な仕事を頼まれたけれど、本当は断りたい。でも、断るとやる気がないと思われそう……」 「部下のミスを指摘したいけれど、嫌われたくないからつい遠回しに言ってしまい、結局伝わらない」 「自分の意見を言ったつもりが、相手を怒らせてしまった。どう伝えればよかったんだろう?」

このように「相手を尊重すること」と「自分の意見を伝えること」のバランスに悩むすべての方に知ってほしいのが、アサーティブ・コミュニケーションです。

これは、相手を負かすためでも、自分が我慢するためでもありません。お互いの立場を尊重しながら、誠実に、対等に意見を交わすための技術です。

1. アサーティブとは何か? 3つのコミュニケーション・スタイル

私たちは無意識のうちに、状況に応じて3つのスタイルのいずれかをとっています。まずは自分がどのタイプになりやすいか、振り返ってみましょう。

① 攻撃的タイプ(アグレッシブ)

  • 特徴: 自分の意見を押し通し、相手をコントロールしようとする。

  • 結果: 短期的には物事が進むが、周囲に恐怖心や反感を与え、信頼関係が崩れる。

  • 口癖: 「いいからやって」「普通はこうでしょ」「なぜできないの?」

② 非主張的タイプ(ノン・アサーティブ)

  • 特徴: 自分の気持ちを押し殺し、相手に合わせすぎる。

  • 結果: ストレスが溜まり、後で爆発したり、周囲から「何を考えているかわからない」と思われたりする。

  • 口癖: 「私はいいので……」「お任せします」「すみません(が口癖)」

③ アサーティブ・タイプ

  • 特徴: 自分の意見も、相手の意見も大切にする。

  • 結果: お互いに納得感のある「第3の案」が見つかりやすく、長期的な信頼関係が築ける。

  • 姿勢: 「私はこう思うけれど、あなたはどう感じますか?」という対等なスタンス。

アサーティブは英語では「Assertive」、「言い張る」や「断言的」などの意味合いを持っています。自分の意見や気持ちを表現する手段ではありますが、自分と相手が対等であり、相手の意見を尊重する気持ちも含まれます。

その場に必要な表現を適切に使い分け、相手の気持ちを尊重できること、また自分の主張もはっきりとできるので、もし相手と意見が対立したとしても納得できる答えや結論を導き出せる力です。

2. 【実践テクニック】自分の主張をはっきりと相手に伝える黄金の4ステップ「DESC法」:

アサーティブに伝えるための最も強力なフレームワークが、DESC(デスク)法です。頭文字に沿って整理するだけで、感情的にならずに想いを伝えることができます。

ステップ 内容 具体的なポイント
D(Describe):描写 客観的な事実を伝える 自分の推測や感情を入れず、誰が見ても明らかな「事実」だけを話す。
E(Explain):説明 自分の気持ちや主観を伝える 「私は〜と感じている」と、アイ(I)メッセージで伝える。相手を責めない。
S(Suggest):提案 具体的な解決策やお願いを出す 「こうしてほしい」という具体的な提案をする。押し付けず、選択肢を示す。
C(Choose):選択 相手の反応に対する選択肢を持つ 相手が「Yes」の場合と「No」の場合、それぞれの次の行動を考えておく。

これが基本の4つのステップです。この4ステップで一番重要なのは「自分は、相手に一体どうして欲しいのか」を自分で探り、整理する作業です。

この「自分は、相手に一体どうして欲しいのか」がよく整理できていなかったり、気づかないでいたり、腑に落ちていなかったりすると、相手の責任にしてしまい、相手を責めたり、批判したりすることになってしまいます。

自らの責任をもって相手に要望を伝えるのがアサーティブ・コミュニケーションの基本になります。

手順1.  客観的な事実を伝える

主観的な意見は一切含めずにより客観的な目線で具体的に意見を述べます。

  • 「待ち合わせに5分遅れてきた」
  • 「誕生日に会う約束をしていたのに来なかった」
  • 「頼んでいた資料を忘れている」

手順2.  自分の気持ちや主観を伝える

「私は」を主語にして自分の気持ちを率直に伝えます。

  • 「〇〇な事実があったけど、私はとても悲しかったよ」
  • 「〇〇な事実があったけど、私は少し違和感を感じます」
  • 「〇〇な事実があったけど、私はとてもうれしかったです」

手順3.  具体的な解決策やお願い・要望を出す

「お願い」や「要望」などを相手にきちんと伝えます。押し付けず、選択肢を示します。

抽象的過ぎると相手に伝わらないこともあるので、より具体的に表現することが大切です。例えば「遅れるなら連絡の1本はして欲しい」とか「仕事に集中できないなにか事情があるなら話して欲しい」と要望を言葉にすれば、相手にとってもこうやって伝えていればよかったのかと気付きにも繋がります。

手順4.  相手からの反応を受け取り、相手の反応に対する選択肢を持つ

行動の選択になり、要望に対して相手が承認したのか拒否したのかによって変わります。自分が行う行動を相手に伝えるので、相手が「Yes」の場合と「No」の場合、それぞれの次の行動を考えておきます。

3. 【具体例】ビジネスシーンでの書き換えビフォー・アフター

実際の場面で、DESC法をどう使うか見てみましょう。

事例A:定時間際に急な仕事を頼まれた時

  • × 非主張的: 「(本当は予定があるけど)あ……はい、わかりました。やっておきます……(ため息)」

  • × 攻撃的: 「今さら無理ですよ! 自分の仕事だって終わってないのに、非常識じゃないですか?」

  • ◎ アサーティブ(DESC法):

    • D: 「今、17時半ですね。明日の午前中までの資料作成の依頼だと理解しました。」

    • E: 「今日はこの後外せない予定があり、今から受けるとクオリティが下がってしまうのが心配です。」

    • S: 「もしよろしければ、明日の朝一番から取り掛かり、お昼までに仕上げる形でもよろしいでしょうか?」

    • C: 「(相手が急ぎだと言うなら)それなら、今抱えている別のタスクを誰かに代わってもらえるか相談してみますね。」

事例B:部下の報告が遅いことを注意する時

  • ◎ アサーティブ(DESC法):

    • D: 「今回のプロジェクト、進捗報告が期限から2日過ぎているね。」

    • E: 「状況が見えないと、サポートが必要かどうかが判断できなくて、私は少し困っているんだ。」

    • S: 「これからは、たとえ完了していなくても、金曜の夕方に一度状況を共有してくれるかな?」

    • C: 「もしその時間が難しければ、他にやりやすい報告のタイミングを教えてほしいな。」

4. 伝え方のコツ:「I(アイ)メッセージ」を活用する

アサーティブの基本は、主語を「あなた(You)」ではなく「私(I)」にすることです。

  • Youメッセージ: 「(あなたは)なぜいつも遅れるの?」 ⇒ 相手は責められていると感じ、反論したくなります。

  • Iメッセージ: 「(私は)連絡がないと、何かあったのかと心配になるんだ」 ⇒ あなたの「感情」を伝えているだけなので、相手は素直に聞き入れやすくなります。

5. 明日から使える! アサーティブへの3ステップ

  1. 「自分の権利」を認める 「私には断る権利がある」「私には意見を言う権利がある」と自分に許可を出してください。あなたが意見を言うことは、相手への攻撃ではありません。

  2. まず「事実(D)」だけを言う練習をする 感情が走りそうな時ほど、「今、何が起きているか」という事実だけを言葉にしてみてください。これだけで冷静になれます。

  3. 小さなことから「提案(S)」してみる ランチのお店選びや、会議の些細な進行など、小さな場面で「私はAがいいと思いますが、皆さんはどうですか?」と提案する練習を積み重ねましょう。

6. まとめ:アサーティブは「誠実さ」の現れ

アサーティブ・コミュニケーションを身につけることは、単に話し方が上手くなることではありません。自分を大切にし、同時に相手のことも大切にしようとする「誠実な生き方」そのものです。

最初は勇気がいるかもしれません。上手くいかないこともあるでしょう。しかし、誠実に伝え続けようとする姿勢は、必ず相手に伝わり、あなたの周りの人間関係をより豊かで心地よいものに変えていくはずです。

「働く人のコミュニケーション学」では、職場の人間関係を劇的に変える心理学のテクニックを、日々発信しています。