製造業の「企画総務課(経営企画・総務)」の方々に向けた実践ガイドを作成しました。
企画総務は、経営層の抽象的なビジョンを具体的な施策に落とし込み、同時に現場からの多種多様な要望を調整する「組織の要」です。しかし、そこには「言わなくてもわかっているはず」「これが会社の常識だ」といった、多くのコミュニケーションのズレが潜んでいます。
経営と現場の板挟みを解消し、組織を円滑に動かすための「メタモデル」活用術を解説します。
1. はじめに
企画総務の仕事は、形のないものを形にする仕事です。「社内活性化」「コスト削減」「働き方改革」……。経営陣から投げられる言葉はどれも重要ですが、そのままでは現場は何をすべきか分からず、混乱を招くだけです。
なぜ、組織内の指示や要望はこれほどまでに曖昧なのでしょうか。 人が自分の考えや意図(深層構造)を言葉(表層構造)として出力する際、脳は無意識に3つのフィルターを通しています。
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省略(Deletion): 誰が、いつ、どこでといった詳細を省く。
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歪曲(Distortion): 「現場は反対するに決まっている」といった勝手な解釈を加える。
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一般化(Generalization): 「総務はいつも融通が利かない」と一部の経験を全体に広げる。
メタモデルは、これらのフィルターによって失われた情報を質問で復元し、組織の意思決定をクリアにするための「知的な交通整理」の技術です。
2. 「省略」を復元する
企画総務に寄せられる依頼は、主語や目的語が消えた「言葉足らず」の宝庫です。ここを埋めることで、的外れな施策や無駄な作業を防ぎます。
ケース1:不特定名詞(対象が曖昧)
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経営層のセリフ: 「最近、現場の士気が下がっているようだから、何か対策を打ってくれ」
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現場のズレ: 「現場」とは製造ラインなのか、設計なのか? 「士気が低い」とは離職率のことか、生産性の低下か?
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メタモデル質問術: 「承知いたしました。具体的に、どの部署の、どのような振る舞いを見て、士気が下がっているとお感じになられましたか?」
ケース2:比較の省略(基準が曖昧)
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他部署からの依頼: 「会議室が使いにくいから、なんとかしてほしい」
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現場のズレ: 広さが足りないのか、予約システムが不便なのか、備品が古いのかが不明です。
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メタモデル質問術: 「ご不便をおかけしています。何と比較して(あるいはどのような点において)、使いにくいとお感じでしょうか? 具体的な場面を教えていただけますか?」
ケース3:不特定動詞(プロセスが曖昧)
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上司の指示: 「来期の事業計画について、各部と調整しておいて」
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現場のズレ: 数字を集めるだけでいいのか、合意を取り付けるのか、反論を封じ込めるのかが不明です。
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メタモデル質問術: 「調整ですね。具体的に、どのような状態になれば『調整が終わった』と言えますか? 各部の合意まで必要でしょうか?」
3. 「歪曲」を解きほぐす
組織内の思い込みや、根拠のない因果関係を解きほぐすことで、対立を避け、建設的な議論を可能にします。
ケース1:読心術(マインドリーディング)
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総務担当者のセリフ: 「社長は、私たちの提案をコストだと思って嫌がっているに違いない」
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現場のズレ: 社長の真意を確認せず、勝手に「反対される」と決めつけて提案を躊躇しています。
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メタモデル質問術(セルフ): 「社長が嫌がっていると、どのようにして知ったのか? 具体的にそのような発言があったのか、それとも自分の推測か?」
ケース2:因果関係の取り違え(Xが原因でYになる)
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社員のセリフ: 「この社内規定が変わらない限り、私たちは主体的に動けません」
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現場のズレ: 規定(外因)と、自分たちの行動(結果)を直結させ、動けない理由を規定のせいにしています。
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メタモデル質問術: 「規定が障壁になっているのですね。規定が変わらないことと、主体的に動けないことは、どのように結びついているのでしょうか? 現行規定の中でもできる工夫はありませんか?」
ケース3:判断の根拠の消失(ロスト・パフォーマティブ)
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管理職のセリフ: 「製造業の総務なら、現場のワガママを黙って聞くのが正解だ」
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現場のズレ: 誰が決めたかわからない「正解」を盾に、ガバナンスやコンプライアンスを軽視させています。
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メタモデル質問術: 「現場を支える姿勢は大切ですね。その『正解』は、誰が、どのような基準で決めたものでしょうか? 会社の長期的な利益という観点でも同じことが言えますか?」
4. 「一般化」の限界を広げる
「いつも」「絶対に」「無理だ」という言葉は、組織の硬直化を招きます。例外を見つけることで、変革のきっかけを作ります。
ケース1:普遍数量詞(いつも、すべて、絶対)
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社員のセリフ: 「企画総務はいつも自分たちの都合ばかり押し付けてくる」
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現場のズレ: 一部のルール変更への不満を、総務全体の姿勢として一般化しています。
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メタモデル質問術: 「そのように感じさせてしまい申し訳ありません。一度も、現場の皆様の役に立ち、感謝されたことはありませんでしたか? 以前の改善案の時はどうでしたか?」
ケース2:可能性の限定(〜できない)
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担当者のセリフ: 「うちの会社のシステム構成では、絶対にペーパーレス化はできません」
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現場のズレ: 今のやり方に固執し、新しいツールやプロセスの可能性を否定しています。
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メタモデル質問術: 「何が、ペーパーレス化を妨げているのでしょうか? もし、一部の部署から試験的に導入するとしたら、どのような障壁がありますか?」
ケース3:必要性の限定(〜すべき、〜してはいけない)
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自分の思い込み: 「総務は目立ってはいけない、裏方に徹すべきだ」
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現場のズレ: 自分の一般化によって、企画立案などの主導権(イニシアチブ)を発揮する機会を自ら捨てています。
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メタモデル質問術(セルフ): 「目立ったら、具体的に何が起きるのか? 総務がリーダーシップを発揮することで、組織にどんなポジティブな変化が起きるだろうか?」
5. 理想のサービス(アウトカム)へのプロセス
企画総務にとってのアウトカムは、「全社員が目的を共有し、無駄なストレスなく、最高のパフォーマンスを発揮できる環境が整っている」状態です。
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望ましい状態(アウトカム)を明確にする: 「この新しい評価制度を導入して、1年後、社員の顔つきはどう変わっていてほしいか?」というゴールを鮮明にします。
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現在の状態を明確にする: 現場の反対、運用コスト、現行制度の疲弊具合など、ありのままの現状をメタモデルで浮き彫りにします。
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ギャップの発見と理由: なぜ現状から抜け出せないのか? 背景にある経営と現場の「言葉のズレ」や「思い込み」を特定します。
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解決案と行動プラン: 復元した情報を元に、説明会の開催や制度の微調整など、具体的なステップを策定します。
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試行錯誤とパレートの法則: 100%の同意を求めず、「組織の停滞の8割を引き起こしている2割の重要な誤解・不満」にメタモデルを集中させ、効果的に解決します。
6. 明日から使える!企画総務のための「問いかけ」3カ条
会議の議事録を取る時や、他部署からの要望を聞く時に、この3つを心掛けてください。
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「具体的に、誰が、いつまでに、どのような状態になることを目指していますか?」 (「省略」を復元し、経営の意図を現場に翻訳する)
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「その結論(あるいは不満)に至った、客観的な事実は何でしょうか?」 (「歪曲」された感情や思い込みを排し、事実に基づいた施策を打つ)
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「もし、その制約がなかったとしたら、本当はどうしたいですか?」 (「一般化」された組織の限界を外し、本来あるべき姿(アウトカム)を模索する)
企画総務におけるメタモデルは、単なる質問技術ではありません。バラバラになった組織の言葉を繋ぎ合わせ、「会社がどこへ向かい、自分は何をすべきか」という地図を全社員に示すための、プロフェッショナルな編集技術なのです。
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