建設現場を支える「工事監督職」の方々に向けた実践ガイドを作成しました。
騒音や多忙さ、多様な職人が入り乱れる現場では、「言ったつもり」「聞いたつもり」が重大な事故や手戻りに直結します。現場の「表層的な言葉」から、安全と品質を担保するための「深層にある真意」を引き出すためのメタモデル活用術を解説します。
1. はじめに
建設現場のコミュニケーションは、常に時間と安全との戦いです。職人さんへの指示や業者との打ち合わせにおいて、私たちはついつい「あうんの呼吸」を期待してしまいます。しかし、個々の経験や立場によって、同じ言葉でも受け取り方は全く異なります。
人が体験や意図(深層構造)を言葉(表層構造)に変換する際、脳は無意識に「省略・一般化・歪曲」という3つのフィルターを通します。
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省略(Deletion): 「安全に」と言いつつ、具体的な手順を省く。
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一般化(Generalization): 「最近の若手は……」と一括りにする。
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歪曲(Distortion): 「返事がないのは、やる気がないからだ」と思い込む。
これらのフィルターによって削ぎ落とされた情報を、正確な質問(メタモデル)で復元することが、事故のない現場作りの第一歩となります。
2. 「省略」を復元する
現場での「言葉足らず」は命取りです。曖昧な指示を具体的なアクションへと復元します。
ケース1:不特定名詞(対象が曖昧)
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監督のセリフ: 「そこ、危ないから気をつけて」
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現場のズレ: 職人は「足元」だと思ったが、実は「頭上の吊り荷」のことだった。
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メタモデル質問術: 「具体的に、どこの何がどのように危険なのでしょうか? 指差しで教えてください」
ケース2:比較の省略(基準が曖昧)
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職人のセリフ: 「この工程、いつもより時間がかかりそうだ」
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現場のズレ: 監督は「30分程度」だと思ったが、職人は「半日」のつもりだった。
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メタモデル質問術: 「当初の予定と比較して、あと何分(何時間)追加で必要になりますか? 15時からの次工程に影響しますか?」
ケース3:不特定動詞(プロセスが曖昧)
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監督のセリフ: 「明日までに、ここを綺麗に片付けておいて」
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現場のズレ: 職人は掃き掃除をしたが、監督は「廃材の完全撤去と搬出」までを求めていた。
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メタモデル質問術: 「片付けというのは、具体的にどこまでの状態を指していますか? 掃き掃除だけでいいですか、それとも廃材をトラックへ積み込むまで必要ですか?」
3. 「歪曲」を解きほぐす
勝手な思い込みや、事実に基づかない因果関係を正し、人間関係の摩擦を減らします。
ケース1:読心術(マインドリーディング)
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監督のセリフ: 「あの職人は俺の指示を無視しているんだ」
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現場のズレ: 単に騒音で聞こえなかったか、別の作業に集中していただけかもしれない。
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メタモデル質問術(セルフ): 「彼が無視していると、どのようにして知ったのか? 単に聞こえていない可能性はないか?」
ケース2:因果関係の取り違え
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職人のセリフ: 「監督がせかすから、ミスが出たんだよ」
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現場のズレ: 「せかす(外因)」と「ミス(結果)」を直結させ、自分の不注意という事実から目を逸らしている。
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メタモデル質問術: 「せかされたことで、具体的にどの手順を飛ばしてしまったのでしょうか? 次回、同じ状況でミスを防ぐにはどうすればいいですか?」
ケース3:判断の根拠の消失(ロスト・パフォーマティブ)
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ベテランのセリフ: 「現場じゃ、昔からこうやるのが一番なんだよ」
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現場のズレ: 新しい安全基準や効率的な工法を、根拠のない「当たり前」で拒絶している。
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メタモデル質問術: 「そのやり方は、誰が(どの基準で)一番だと言っているのでしょうか? 今の安全規定と比較して、問題はないでしょうか?」
4. 「一般化」の限界を広げる
「いつも」「絶対に」という決めつけは、現場の改善や若手の育成を阻害します。
ケース1:普遍数量詞(いつも、すべて、絶対)
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監督のセリフ: 「あの業者は、いつも養生が雑だ」
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現場のズレ: たまたま一度雑だっただけかもしれないのに、先入観で厳しく当たりすぎて関係が悪化する。
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メタモデル質問術: 「本当に一度も、丁寧に養生してくれたことはありませんでしたか? 良かった時のやり方をもう一度徹底してもらうことはできませんか?」
ケース2:可能性の限定(〜できない)
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職人のセリフ: 「この工期じゃ、絶対に終わらない」
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現場のズレ: 従来のやり方では不可能だという「枠」に囚われている。
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メタモデル質問術: 「何が、完工を妨げているのでしょうか? 人員を増やすか、資材の搬入時間を変えれば、少しでも可能性は見えますか?」
ケース3:必要性の限定(〜すべき、〜してはいけない)
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若手監督の思い込み: 「自分は監督なんだから、職人より完璧でなければならない」
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現場のズレ: 完璧主義がプレッシャーになり、わからないことを職人に聞けず、大きなミスを見逃す。
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メタモデル質問術(セルフ): 「完璧でないと、具体的に何が起きるのか? 職人の知恵を借りることで、現場はより円滑に進むのではないか?」
5. 理想のサービスへのプロセス
工事監督にとっての「理想の状態(アウトカム)」とは、「無事故・無災害で、品質を保ち、工期内に完工すること」です。
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望ましい状態(アウトカム)を明確にする: 「今日の作業が、怪我なく予定通り終わること」を具体目標にする。
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現在の状態を明確にする: 天候、人員不足、職人の顔色、現場の汚れなど、今の「生の情報」をキャッチする。
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ギャップの発見と理由: なぜ予定通り進まないのか? その背景にある情報の「省略・歪曲・一般化」を特定する。
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解決案と行動プラン: 復元した情報を元に、人員の再配置や指示の出し直しを行う。
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試行錯誤の繰り返し: 現場は常に動いています。パレートの法則を念頭に、「重大事故に繋がる2割の曖昧な指示」に集中してメタモデルを活用しましょう。
6. 明日から使える!工事監督職のための「問いかけ」3カ条
KY活動(危険予知活動)や朝礼、現場巡回でこの3つを口癖にしてください。
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「具体的に、どこを・どうすることですか?」 (「省略」を復元し、作業ミスと事故を物理的に防ぐ)
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「それは、どうして分かったのですか?(証拠は何ですか?)」 (「歪曲」された思い込みや直感を、事実という設計図に戻す)
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「もし、〇〇ができたら、どうなりますか?」 (「一般化」された限界を超え、工期短縮や安全向上のアイデアを引き出す)
現場におけるメタモデルは、相手を詰めるための道具ではなく、職人の命とプライドを守り、確かな建物を造り上げるための「言葉のヘルメット」なのです。
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