「何かあれば、いつでも言って」
そう伝えている。本心から、そう思っている。
でも、部下は相談してこない。
1on1でも、「特にないです」で終わる。廊下で声をかけても、「大丈夫です」と返ってくる。
「もしかして、自分に問題があるのだろうか」と感じたことがある上司は、少なくない。
でも、「何が悪いのか」がわからない。話しかけやすい雰囲気は、意識しているつもりなのに。
この記事では、「相談されない」という状態がなぜ生まれるのか、その構造を整理していく。
相談されやすい上司が持っているのは、特別なトークスキルではない。
それは「姿勢」——もう少し正確に言えば、部下が「ここなら話しても大丈夫」と感じるための、場の条件だ。
「あなたのコミュニケーションが悪い」という話ではない。なぜそうなるのか、という構造の話をしたい。
「話しかけやすい雰囲気」と「相談できる安心」は、別物だった
「笑顔で接している」「威圧的な態度はとっていない」「声をかけやすい雰囲気にしているつもり」
そういう上司でも、部下から相談されないことはある。
それはなぜか。
「話しかけやすい」と「本音を打ち明けられる」は、まったく別の条件で成立するからだ。
話しかけやすい雰囲気は、「物理的・感情的な距離感」の話だ。
でも、相談できる安心感は、「この人に話したら、どうなるか」という予測の話だ。
部下は、無意識のうちにこんなことを考えている。
- 「相談したら、評価が下がらないだろうか」
- 「話したことが、他に漏れないだろうか」
- 「どうせ『そんなこと気にするな』で終わるんじゃないか」
- 「解決策を押しつけられて、もやもやしたまま終わるんじゃないか」
笑顔で接していても、過去にこういった体験が一度でもあると、部下は「相談しない」という選択をするようになる。
「話しかけやすい」は入口だ。でも「相談できる」は、その先にある別の扉だ。
部下が相談してこない「構造」の話
相談されない状態は、上司の人格の問題ではなく、関係の構造と過去の体験の積み重ねから生まれることが多い。
① 「聴いているふり」が積み重なっている
忙しい中でも話を聞こうとする上司は多い。
でも、部下の側から見ると、こんな場面を記憶していることがある。
- 話している途中でスマホを見ていた
- 話を最後まで聞かずに「つまり〇〇ってことだね」とまとめた
- 相談したら、すぐに「じゃあこうすればいい」と解決策が返ってきた
これらは悪意からではない。でも、「自分の話はちゃんと受け取ってもらえなかった」という記憶として蓄積する。
その記憶が「相談しても意味がない」という予測を作る。
② 相談の「コスト」が高く感じられる
部下にとって、上司に相談するのは、思っている以上にエネルギーがいる行動だ。
「自分が弱く見えないか」「問題を抱えていると思われないか」「余計な仕事が増えないか」
そのコストに見合う「安心の確信」がないと、相談という行動は選ばれない。
相談されやすい上司は、このコストを下げている。 技術よりも先に、「話しても損をしない」という実績を積んでいる。
③ 「何かあれば言って」という言葉の受け取られ方
実は、「何かあれば言って」という言葉は、部下にとってやや負担になることがある。
「何かがある」という状態を自分で定義して、それを言語化して、タイミングを見計らって……という一連のプロセスを、部下に委ねているからだ。
「何かある」と自覚できていない悩みは、「何かあれば」では引き出せない。
相談されやすい上司は、「何かあれば言って」と言うだけでなく、「最近どう?」という何気ない問いかけを日常の中に散らしている。

相談される上司が持っているのは、「受け取る力」だった
相談されやすい上司を観察すると、ある共通点がある。
それは、「解決しようとしない」ということだ。
少し意外に聞こえるかもしれない。でも、部下が「相談したい」と思う瞬間は、多くの場合「解決してほしい」よりも「聞いてほしい」「受け取ってほしい」という感覚から来ている。
「聴く」という行為は、受動的に見えて、実は能動的な技術だ。
相槌を打つ、言葉を繰り返す、沈黙を怖れない——こういった行動の積み重ねが、「この人には話せる」という感覚を育てていく。
| 相談されにくい反応 | 相談されやすい反応 |
|---|---|
| すぐに解決策を出す | まず「そうか、大変だったね」と受け取る |
| 「それはこう考えるべきだ」と方向付ける | 「あなたはどう思ってるの?」と聞き返す |
| 話の途中でまとめようとする | 最後まで聞いてから、ゆっくり返す |
| 感情ではなく事実だけを聞く | 「そのとき、どんな気持ちだった?」と感情に触れる |
この違いは、スキルというより「相手の話を受け取ろうとする姿勢の差」だ。
今日から試せる、小さな認知の整理
技術を変える前に、まず自分のパターンを少し確認してみてほしい。
「解決策を考える」「状況を整理しようとする」——そちらに意識が向いているなら、それが「受け取る前に処理してしまっている」状態かもしれない。
まず「受け取ること」が先、という意識に変えるだけで、部下の反応が少し変わることがある。
仕事の進捗や状況ではなく、「そのとき、どんな気持ちだったか」を聞いた記憶があるかどうか。
なければ、次の1on1で一度だけ試してみてほしい。「それで、あなた自身はどう感じてる?」という一言を、解決策の前に置いてみる。それだけで、場の空気が変わることがある。

「部下と信頼関係を築く聴き方」を、もう少し体系的に整理したい人へ
「何かあれば言って」が機能しない理由は、言葉の問題ではなく、聴き方と場の作り方の問題であることが多い。
相談されやすい上司が実践している「聴く技術」と「場の育て方」を、もう少し丁寧に整理した記事をこのサイトで用意している。
部下との1on1をもっと意味のある時間にしたい、信頼関係を少しずつ作っていきたい、という方にぜひ読んでみてほしい。

