仕事やプライベートにおいて、「話が通じない」「相手の本音がわからない」と悩むことはありませんか? コミュニケーションの質を高める鍵は、話し上手になることではなく、「聞き上手(傾聴力)」になることです。
今回は、単なる座学ではなく、体験を通して「傾聴」を身体で覚えるためのグループワーク手法を解説します。このワークは、話し手・聞き手・観察者という「3つの視点」を体験することで、自分自身のコミュニケーションの癖に気づき、対人スキルを飛躍的に向上させることを目的としています。
明日からのチームミーティングや研修で、ぜひ実践してみてください。
1. ワークショップの概要と目的
このワークショップの核心は、コミュニケーションを**「3つの立場」**に分解して体験することにあります。
- 話し手(当事者): 自己開示し、思いを言葉にする立場。
- 聞き手(相手): 相手を受け入れ、言葉を引き出す立場。
- 観察者(第三者): 一歩引いて、場の全体像を客観視する立場。
普段、私たちは「話し手」か「聞き手」のどちらかになっていますが、自分の会話を客観的に見る機会はほとんどありません。あえて「観察者」というカメラの役割を置くことで、会話の空気感や、言葉以外の非言語メッセージに気づくことができます。
準備するもの・環境
- 人数: 3人1組(トリオを作ります)
- 配置: 正三角形になるように椅子を配置します(お互いの顔がよく見えるように)。
- 時間: 1ラウンド約15分 × 3回(全員が全役を回すため)

2. 実践! 3つの役割と具体的なアクション
それぞれの役割には、明確なミッションがあります。ここを意識するかどうかでワークの質が変わります。
① 話し手のミッション:「直感的に、素直に話す」
今回のテーマは**「自分が改善したいと思っている人間関係」**です。 上司、部下、家族、友人など、少しうまくいっていない相手を思い浮かべてください。
- 考えすぎない: 上手に話そうとする必要はありません。思いついたまま、とりとめのない話でOKです。
- 具体的に: 「誰と」「どんな場面で」「何が起きたか」を素直に語ります。
- 感情を乗せる: 事実だけでなく、「その時どう思ったか」「本当はどうしたかったか」という感情に触れてみてください。
② 聞き手のミッション:「全身全霊で傾聴する」
このワークの主役です。ただ黙って聞くのではなく、以下の4つのプロセス(傾聴サイクル)を意識して関わります。
【傾聴の4ステップ・サイクル】
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話を聴く(Listen)
- 相手の話を途中で遮らない。沈黙が訪れても、相手が言葉を探している時間だと思って待ちます。
- 言葉の意味だけでなく、声のトーンや表情から「言葉にならない気持ち」を感じ取ります。
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受け止める(Accept)
- 「それは間違っている」「こうすべきだ」というジャッジ(判断)を一切手放します。
- まずは深呼吸をして、相手の言い分をそのまま「そうなんだね」と受け止めます。
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問いかける(Ask)
- 相手を問い詰める質問はNGです。相手の思考を深めるための「オープン・クエスチョン(Yes/Noで答えられない質問)」を使います。
- 例:「その時、具体的にどう感じましたか?」「本当はどうしたかったですか?」
- ※質問の意図(なぜそれを聞くのか)を添えると、相手は安心します。
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返答する(Respond)
- 「あなたは~だ」と決めつけるのではなく、「私(I)」を主語にして返します(アイ・メッセージ)。
- 例:「その話を聞いて、私は胸が痛くなりました」「私だったら、同じように迷うと思います」
③ 観察者のミッション:「会話の『空気』を見る」
自分は透明人間になったつもりで、一切発言せずに2人のやり取りを観察します。メモを取りながら、以下のポイントをチェックしてください。
《観察チェックポイント》
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非言語情報:
・2人の表情(笑顔、強ばり)
・声のトーン、話す速さ、間(ま)
・姿勢(前のめりか、腕組みしているか)
・距離感の変化 -
話の流れ(フロー):
・どこで話が盛り上がったか?
・どこで話が詰まったか?
・聞き手の「どのアクション」によって、話し手の本音が引き出されたか? -
自分自身の感情:
・2人のやり取りを見ていて、自分自身がどう感じたか?
3. ワークの進め方とタイムスケジュール
3人1組になり、役割(話し手・聞き手・観察者)を決めたらスタートです。
ステップ1:セッション実施(5分〜7分)
話し手が話し始め、聞き手が傾聴します。観察者は記録します。 聞き手は、前述の「聴く→受け止める→問いかける→返答する」のサイクルを意識してください。
※時間は目安です。話が深まったタイミングで区切っても構いません。
ステップ2:フィードバック(3分〜5分)
ここが最も学びになる時間です。ワークが終わったら、必ず以下の順番で感想を伝え合います。
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まずは「聞き手」から
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「うまく聞けたか不安だった」「ここで質問するか迷った」など、自分の内面について話します。
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次に「話し手」から
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「今の質問ですごく話しやすくなった」「相槌が嬉しかった」「聞いてくれてスッキリした」など、聞き手への感謝と感想を伝えます。
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最後に「観察者」から
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「開始2分頃、聞き手さんが前のめりになった瞬間に、話し手さんの声が明るくなりましたね」など、客観的な事実に基づいた報告をします。
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ステップ3:役割交代
フィードバックが終わったら、役割を時計回りに交代します。 これを3セット行い、全員がすべての役割を体験します。
4. このワークから得られる「3つの学び」
全員が全ての役割を終えたとき、コミュニケーションに対する見方が大きく変わっているはずです。それぞれの立場には、以下のような重要な意味があります。
① 話し手の学び:自己開示の重要性
「聞いてもらうこと」がいかに安心感を生み、頭の中を整理させるかを体感します。自分の思いを言葉にする(自己主張する)ことの難しさと大切さを学びます。
② 聞き手の学び:引き出す力の効果
自分の意見を押し付けず、相手に寄り添うことで、相手が自ら答えを見つけ出していくプロセスを目の当たりにします。「聞く」とは受動的な行為ではなく、相手の可能性を拓く能動的な関わりであることを理解します。
③ 観察者の学び:メタ認知(俯瞰する力)
当事者から離れて全体を見ることで、「会話が噛み合っていない瞬間」や「共感が生まれた瞬間」が手に取るようにわかります。この視点は、実際の会議や交渉の場で、場の空気を読むために不可欠なスキルです。
まとめ:日常業務への応用
この「コミュニケーションの3つの立場」は、特別なワークの中だけでなく、日常のあらゆる場面に応用できます。
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部下と話すとき: 今、自分は「聞き手」に徹しているか? アドバイスを急いでいないか?
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会議に参加するとき: 今、自分は「話し手」として主張すべきか、それとも「観察者」として議論の流れを整理すべきか?
相手が求めている役割を理解し、その時々で適切な「帽子」を被り直すこと。 それができる人こそが、真の意味での「コミュニケーション能力が高い人」です。
ぜひ、このワークを通して、職場での対話の質を一段階レベルアップさせてください。

