介護ケアにおいて、ケアする相手の拒否が強い場合、介護する側も精神的に追い詰められてしまいますよね。ユマニチュードの視点では、強い拒否は「嫌がらせ」ではなく、本人からの「怖い」「不快だ」「何をされるかわからない」というSOSサインと捉えます。
フランス発祥の認知症ケアであるユマニチュードの概要は前回記事をご覧ください↓
それぞれの場面で拒否が強い時の「逆転の発想」と具体的な対策をまとめました。
1. 食事を拒否する場合
原因の推測: お腹が空いていないだけでなく、「食べ物だと認識できない」「口を開けるのが怖い」「座るのが疲れた」などの理由があります。
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対策:同じものを少しだけ食べて見せる
人は、目の前の人が美味しそうに食べているのを見ると、ミラーニューロン(共感細胞)が働き、「自分も食べていいものだ」と安心します。「毒見」のような役割をして安心感を与えます。
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対策:「おつまみ」作戦
「食事」という形式を嫌がるなら、一口サイズのおにぎりやサンドイッチにして、手で持てるようにします。座るのを嫌がるなら、少し立って(垂直性の維持)一口食べるだけでも「成功」と見なします。
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声かけ: 「これ、とっても甘くて美味しいですよ(パクっと食べる)。あぁ、幸せ。〇〇さんにもこの幸せをお裾分けしてもいいですか?」
2. 着替えを拒否する場合
原因の推測: 「脱がされる=裸にされる」という羞恥心や、関節を動かされる時の「痛み」、あるいは「今の服がお気に入り」という執着があります。
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対策:「選択肢」で主導権を返す
「着替えますよ」ではなく、「今日はこの赤い服と青い服、どちらが気分ですか?」と聞きます。自分で選ぶことで、「強制された」という感覚が「自分で決めた」という感覚に上書きされます。
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対策:肌の露出を最小限にする
全部脱がせてから着せるのではなく、上を脱がせたらすぐ新しいのを着せるなど、露出時間を短くします。バスタオルを肩にかけるだけでも、本人の「守られている感」が変わります。
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声かけ: 「この服、少し汚れてしまったのが勿体ないですね。お洗濯して、また明日ピカピカにして着ませんか? その間、こちらのお召し物も素敵ですよ」
3. おむつ交換を拒否する場合
原因の推測: 最も拒絶が激しくなりやすい場面です。「襲われる」という恐怖心や、自分の尊厳が傷つく痛みから、手が出たり暴れたりすることがあります。
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対策:「正面からの見つめ合い」を絶やさない
下半身を触っている間、もう一人が(あるいは自分が)顔の正面(20cmほど)でじっと目を見つめ、優しく語りかけ続けます。 意識を下半身から「顔」へそらすことで、恐怖心を和らげます。
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対策:「お掃除」と言わない
「汚いから替えましょう」は自尊心を傷つけます。「少し蒸れていないか確認させてくださいね」「さっぱりして、ぐっすり眠れるようにしましょう」と、本人のメリットを伝えます。
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声かけ: (目を見つめながら)「大丈夫ですよ、私がついています。すぐ終わりますからね。あぁ、目が合うと安心しますね。いつもありがとうございます」
全てに共通する「鉄則」
① 15分〜20分の「仕切り直し」
拒否が激しい時に無理強いすると、脳に「この人は敵だ」という強い負の記憶が刻まれます。一度その場を離れ、20分ほど経ってから「初めて来たフリ」をして、笑顔でノックからやり直してください。
② 「部分肯定」から入る
「嫌だ!」と言われたら、「嫌じゃないですよ」と否定せず、「嫌ですよね」「今はそんな気分じゃないですよね」と一度100%同意します。味方だと認識されると、その後の提案が通りやすくなります。
③ ケアの「完了」を無理に目指さない
「おむつを完璧に替える」ことがゴールではなく、「本人が穏やかでいること」をゴールにします。半分までできたら「今日はここまで。頑張りましたね」と切り上げる勇気も、ユマニチュードでは大切にされています。
介護する方が一人で抱え込むと、声のトーンや表情に焦りが出て、それが本人に伝わってさらに拒否が強まる…という悪循環になりがちです。
まずは「今日は目を見つめる時間を3秒長くする」といった小さな目標から始めてみましょう


