「部下を褒めているつもりなのに、どこか他人事のように聞き流される」 「良かれと思って叱ったら、相手が萎縮してしまい、関係が悪化した」
多くのリーダーが抱えるこの悩み。実は、褒める・叱るという行為には、心理学に基づいた「狙うべき階層」があります。ここを間違えると、どんなに言葉を尽くしても相手には届きません。
思い通りにいかないことが続くとついイラッとして叱ったり怒鳴ってしまったり、ときには褒めたつもりが逆効果になり嫌な気分にさせてしまった経験はありませんか。褒め方や叱り方というのは意外と難しいもので伝え方一つで違った結果になってしまいます。
この記事では、NLPの「ニューロ・ロジカル・レベル」を活用し、相手の自己肯定感を高めながら、望ましい行動へと導く具体的なテクニックを解説します。

1. 褒め方・叱り方の成否を分ける「階層」の法則
NLPには、下図のように人間の意識を5つの階層で捉える「ニューロ・ロジカル・レベル」という考え方があります。

-
環境: 周囲の状況(いつ、どこで)
-
行動: 具体的にやったこと(何を)
-
能力: 才能やスキル(どうやって)
-
信念・価値観: 大切にしていること(なぜ)
-
自己認識(アイデンティティ): 自分は何者か(自分らしさ)
結論から言えば、「褒める時は深い階層(自己認識)」を、「叱る時は浅い階層(行動・環境)」を対象にすることが、コミュニケーションの鉄則です。
2. 【褒める技術】相手の「存在(Being)」を肯定する
多くの人は「行動(Doing)」を褒めますが、本当に心に響くのはその奥にある「自己認識(Being)」に触れられた時です。
NG例:表面的な「行動」だけを褒める
-
「資料作成、早かったね」
-
「契約取れたんだ、すごいね」 これらは事実の確認に過ぎず、相手は「次も早くやらなきゃ」「結果を出さないと褒められない」とプレッシャーに感じてしまうことがあります。
OK例:深い階層(能力・信念・自己認識)へ踏み込む
褒める時は、ピラミッドの下から上へ向かって言葉を紡ぎます。
-
能力を褒める: 「君の情報の整理能力(能力)は、チームの中でも随一だね」
-
価値観を褒める: 「いつも相手の立場に立って考える姿勢(価値観)、素晴らしいと思うよ」
-
自己認識を褒める: 「君は、まさにチームの潤滑油のような存在(自己認識)だ。君がいるだけで安心感が違うよ」
【明日から使えるコツ】 相手が当たり前にやっていることの裏にある「才能」や「人柄」を見つけ出し、「あなたは〇〇な人だ」というアイデンティティへのメッセージを届けてください。
3. 【叱る技術】人格(Identity)と行動を切り離す
叱る時に最もやってはいけないのが、相手の自己認識(人格)を攻撃することです。これが「パワハラ」や「メンタルダウン」の引き金になります。
NG例:人格(自己認識)を否定する
-
「お前はいつも詰めが甘いんだ(アイデンティティの否定)」
-
「やる気があるのか!(信念・価値観の否定)」 こう言われた相手の脳は防御モードに入り、「自分はダメな人間だ」と学習するか、あなたに対して強い敵意を抱きます。
OK例:浅い階層(行動・環境)に限定して伝える
叱る時は、ピラミッドの上(人格)は守り、下(行動・環境)だけを修正します。
-
人格は肯定する: 「君の責任感の強さ(自己認識)は知っている。だからこそ、今回の件は残念だ」
-
行動を修正する: 「報告が1日遅れた(行動)という事実は、プロジェクト全体に影響する」
-
環境を整える: 「デスク周りを整理(環境)すれば、もっとミスが減るかもしれないね」
【明日から使えるコツ】 「お前が悪い」ではなく、「あなたの『この行動』が問題なので、一緒に改善しよう」というスタンスを貫くことで、相手はプライドを傷つけられることなく、前向きに改善に取り組めます。

4. 合わせ技の決定版!「サンドイッチ法」の実践
心理的抵抗を最小限にしつつ、厳しいフィードバックを伝えるための王道テクニックが「サンドイッチ法」です。
-
肯定(褒める・認める): 相手のアイデンティティや日頃の貢献を認める。
-
改善要求(叱る・正す): 具体的な「行動」の修正を促す。
-
期待(励ます・結ぶ): 相手の可能性を信じていることを伝え、ポジティブに締める。
具体的なトーク例
「〇〇さん、いつも誰よりも早く出社して準備を整えてくれる姿勢(信念)、本当に頼りにしているよ。 ただ、今回の会議資料の数字に1箇所誤りがあった(行動)ね。ここは正確性が求められる部分だから、次回からはダブルチェックを徹底してほしい。 君の丁寧な仕事ぶり(能力)なら、すぐに完璧にこなせるようになると確信しているよ。期待しているね。」
5. 効果を最大化させる2つの黄金律
最後に、NLPの観点から非常に重要な「ルール」を2つお伝えします。
-
褒める時は「人前」で、叱る時は「個室」で
-
褒める:人前で褒められると「集団の中での自分の役割(自己認識)」が強化されます。
-
叱る:人前で叱られると、周囲の目が気になり「恥」の感情が勝ってしまい、学びが停止します。
-
-
「I(アイ)メッセージ」を活用する
-
「(あなたは)〇〇だ!」と決めつけるのではなく、「(私は)君の活躍を見ていて、とても嬉しいよ」と自分の感情として伝えると、相手の心にスッと入り込みます。
-
まとめ:言葉は「刃物」にも「薬」にもなる
褒めることも叱ることも、目的は共通して「相手の成長を支援すること」です。
-
褒める時は、相手の深い部分(アイデンティティ)に光を当てる。
-
叱る時は、表面の行動だけを冷静に切り分ける。
この「階層の使い分け」を意識するだけで、あなたの言葉は相手の人生を変えるほどの大きな力を持つようになります。明日、目の前のメンバーの「行動」ではなく「存在」を一つ、褒めることから始めてみませんか?

