「あなたはだんだん眠くなる・・・・・そして、あなたは〇〇になるでしょう・・・」
エリクソンの催眠療法は、かつてテレビに登場してきた催眠術者が、こんな風に唱えながら催眠をかけていくという使い方ではありません。
ミルトン・エリクソンの催眠療法は、クライアントの無意識のリソースを活用して、自然な形で変化を促すことを目的としています。
問題の原因よりも解決に焦点を当てる「解決志向アプローチ」が中心で、治療者はクライアントの強みや資源を引き出す「ガイド」の役割を果たします。また、エリクソンの催眠技法は非常に柔軟で、個々のクライアントの状況に適応可能である点が特徴です。
エリクソンのアプローチは、クライアントの潜在能力や自己治癒力を引き出すことに重きを置いており、特に逆境や困難に直面した際の「再起力」を促進することに優れています。ユーモアやメタファー(比喩表現)、創造的な介入といったエリクソン独自の技法が、治療者とクライアントの関係性や治療効果を高める要素となっています。
催眠誘導や無意識の働きかけに関する具体的な技法、ケーススタディが豊富に含まれており、治療の実践に役立つ内容が盛り込まれています。
ミルトン・エリクソンの人物像
1. エリクソンの生涯
ミルトン・ハイランド・エリクソン(1901年~1980年)は、アメリカの心理学者であり、催眠療法の発展において中心的な役割を果たした人物です。エリクソンは農家に生まれ、幼少期に多くの困難に直面しました。
17歳のときに小児麻痺(ポリオ)を患い、一時的に全身麻痺となりましたが、自力での回復を目指して筋肉の動きや感覚に集中する訓練を行い、驚異的な回復を遂げました。
この経験が彼の後の治療哲学に影響を与え、「人間の潜在力」と「自然な治癒力」を信じる姿勢を育みました。
彼は精神医学を学び、催眠療法を臨床に取り入れ、独自の方法論を確立しました。その革新的なアプローチは、従来の命令型の催眠を超えて、個別のクライアントに適応する柔軟な治療スタイルを生み出しました。
2. 天才催眠療法家としての考え方
エリクソンの催眠療法の中心には、「無意識は問題解決のための重要な資源」という考え方があります。
彼は、治療者がクライアントに解決策を「与える」のではなく、クライアント自身がすでに持っているリソースを引き出すことを目指しました。
エリクソンは「一人ひとりのクライアントが独自の個性を持ち、その個性に合わせた治療が必要」という信念を持ち、治療プロセスをクライアントごとに柔軟に調整しました。
彼の技法には、メタファー(比喩)やユーモア、暗示的な言葉が含まれており、クライアントの無意識に間接的に働きかけることが特徴です。
また、エリクソンは「変化は小さな一歩から始まる」と考え、クライアントが自分で気づかないうちに自然に変化できる方法を重視しました。
3. エリクソンの逸話
小児麻痺の克服
エリクソンが17歳で小児麻痺にかかり、医師から「二度と歩けない」と宣告されたとき、彼は諦めませんでした。ベッドで体が動かない状態の中、彼は鏡を使って自分の筋肉の動きを観察し、イメージトレーニングを行いながら回復に努めました。この経験から、「意識的な努力が無意識に影響を与える」という信念が形成されました。
治療を拒否した男性とのやりとり
あるアルコール依存症の男性が「催眠なんて効果がない」と主張しました。エリクソンは男性に「それなら私を催眠状態にしてみてください」と言い、彼を挑発しました。男性がエリクソンに話しかけるうちに、自分自身が自然に催眠状態になり、その後治療が成功したというエピソードがあります。
無意識のリソースを引き出す物語
あるクライアントが深刻な抑うつ状態に陥った際、エリクソンは庭の植物がどのようにして枯れても春に再び芽吹くかについて話しました。この話を聞いたクライアントは、自然と自身の再生の可能性を感じ、回復に向かいました
4. エリクソンの名言
「あなたのリソースはあなたの中に眠っている。それを発見する手助けをするのが私の役割だ。」
(無意識を尊重し、クライアントの可能性を信じる姿勢を表しています。)
「小さな変化が積み重なることで、大きな変化が起きる。」
(変化のプロセスが自然であるべきという哲学を示しています。)
「すべての人は個別であり、治療もその人に合わせてカスタマイズされるべきだ。」
(エリクソンの治療の柔軟性と独創性を強調しています。)
「ユーモアは治療において最高の潤滑油である。」
(ユーモアを使った治療の効果を示唆しています。)
参考元:
solution‐oriented hypnosis : An Ericksonian approach
ミルトンエリクソンの催眠療法入門 金剛出版社
W・H・オハンロン (著), M・マーチン (著)
Hope & resiliency : understanding the psychotherapeutic strategies of Milton H. Erickson, MD
ミルトンエリクソン心理療法 : レジリエンスを育てる 春秋社
ダン・ショート (著), ベティ・アリス・エリクソン (著), ロキサンナ・エリクソン-クライン (著)