フランス発祥の認知症ケアとして世界的に注目されているのは、「ユマニチュード(Humanitude)」という技法です。
この技法は、1970年代にフランスの体育学学士であったイヴ・ジネストとロゼット・マレスコッティの二人によって開発されました。単なる「介護術」ではなく、「あなたは大切な人間である」というメッセージを伝えるためのコミュニケーション哲学です。
ユマニチュードの概要は前回記事をご覧ください↓

今回は、ユマニチュードを実践するためのステップ、具体的なケアの例について記事をまとめてみました。
1,ユマニチュードを実践する5つのステップ
ユマニチュードは5つのステップを一続きのものとして考え実践します。
どうやったら心を開いてもらえるのか?そのためにも必要なことです。患者さんのちょっとした変化にも気付き、思いやる気持ちを忘れずに接するようにしてくださいね。
1. 出会いの準備
患者さんに介護者が来たことを知らせる為の手順です。特に相手のスペースである居室に入るときに意識するべきことです。そもそも個室の場合もあれば仕切りで仕切られている部屋の場合もあります。
仕切りの場合はゆっくりとした口調で丁寧に言葉を伝えます。いきなりカーテン越しから大きな声で呼び止めるのは、相手をびっくりさせてしまいます。
手順として扉を3回ノックして3秒待つ→反応がないときは何度も繰り返します。
部屋に入るときは1回ノックをして部屋に入ります。患者さんにとっても居室に入るまでの心の準備の時間になりますし、相手を尊重していることにもなります。
2. ケアの準備
介護をスムーズに行う為の告知に当たります。また、ケアをかける準備はできるだけ短くしたほうが、お互いの関係が良好な状態で保つことができます。目安としては20秒~長くても3分程度で効率よく準備しましょう。
また、患者さんに告知するときに、ストレート過ぎる表現は控えるようにしてください。例えば「おむつを変えますね~」とわかっていることでも言葉にすると、患者さんにとっては嫌悪感を感じてしまうこともあります。そもそも介護をしてもらうことを嫌がる人もいるので、どんな気持ちでいるのかをしっかりと考え向き合っていかなくてはいけません。
3. 知覚の連結
「見る」「話す」「触れる」で2つ以上を同時に行う必要があるのが「身体介助」です。
身体を優しく拭きながら「気持ちいいですね~」と話しているのに視線は全く違うところを見ていたり感情がこもっていないような話し方は相手に伝わってしまいます。「本当は興味がないんだな」「形だけいっているだけなんだな」とわかってしまうのです。
介護者の言動の一つ一つがコミュニケーションであることを今一度頭に入れておくようにしましょう。
4. 感情の固定
患者さんと話をするときは常にポジティブな発言を心掛けることが大切です。また、介護者がやってくれたことに対して喜んでくれたことをあえて言葉にして伝えます。
「ご飯食べて美味しかったですね」「たくさんお話できて楽しい時間でしたね」「身体を拭いてすっきりとして気持ちよかったね」など言葉にして伝えることによって、同じ気持ちを共感できるようになります。
お互いの信頼関係がより強くなり、お互いの関係を近づけることができます。感情にムラがあったりネガティブな発言は患者さんを不安にさせるので注意してください。
5. 再会の約束
次にまた会うときにお互いに対してポジティブで前向きな考えを残せるように、「また会えるのを楽しみにしています」「またお家にお伺いしますね!」「またお話できるのを楽しみにしています」など次の約束をします。
認知症の場合そのことを覚えていかなかったとしても、再会の約束はとても重要です。これから何度も顔を合わせることになるからこそ、再会の約束は忘れずに行うようにしてくださいね。
必ずプラスになるはずです。
2. 具体的なケアの例
ユマニチュードを実際の場面でどう使うか、典型的な例をご紹介します。
例1:部屋を訪問する時(出会いの準備)
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従来: ノックしてすぐにドアを開け、いきなり「着替えましょう」と声をかける。
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ユマニチュード: 1. ドアを3回ノックする(相手に自分の存在を知らせる)。 2. 返事がなくても、少し待ってから再度ノックして入室する。 3. 視界に入り、目が合ってから笑顔で挨拶する。
例2:体を洗う時(ケアの実施)
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従来: 無言で、あるいは「洗いますよ」と言ってすぐにシャワーをかける。
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ユマニチュード: 1. まず相手の肩などに優しく触れ、安心感を与える。 2. 「温かいお湯ですよ」「腕を洗いますね、さっぱりしますね」と常に声をかけ続ける(オートフィードバック)。 3. 決して急かさず、相手のペースに合わせる。
例3:ケアを拒否された時
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従来: 「危ないですから!」「これだけやらせてください」と説得・強行する。
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ユマニチュード: 1. 拒絶されたら、無理に続けず一度引き下がる。 2. 「今は嫌なのですね、わかりました」と本人の感情を肯定する。 3. 15分〜20分ほど時間を置き、別のスタッフが訪ねるか、アプローチを変えて再チャレンジする(感情の記憶をリセットする)。
3、まとめ
ユマニチュードを導入した施設では、認知症の方の攻撃性が減ったり、介護者のストレスが軽減されたりといった劇的な効果が報告されています。
もしご家族のケアなどで取り入れたいとお考えでしたら、まずは「正面から目を見て、穏やかに声をかける」という一段階目から始めてみるのがおすすめです。
より詳しい「話しかけ方のコツ」や、ご自宅でできる具体的な練習方法について、さらに詳しくお伝えしましょうか?

