エリクソン催眠療法のアプローチ深く理解するためには、催眠家としてどのような催眠療法をされていたのか、どのようなアプローチをされていたのかを簡単にまとめてみます。
1,古典催眠のような伝統的アプローチとエリクソンのアプローチの違い
「あなたはだんだん眠くなる・・・・・そして、〇〇になります・・・」
エリクソンの催眠療法は、かつてテレビに登場してきた催眠術者がこのように唱えながら催眠をかけていくという使い方ではありません。
このような催眠を伝統的アプローチと言います。
相手の行動を断定して催眠に導くアプローチです。
古典催眠とエリクソン派の催眠療法の違いは、そのアプローチや哲学に大きな違いがあります。
以下に具体例を交えながら詳しく解説します。
1. 古典催眠とエリクソン派催眠の基本的な違い
特徴 | 古典催眠 | エリクソン派催眠 |
アプローチ | 命令型・直接的 | 非命令型・間接的 |
治療者の役割 | 権威的な指導者 | クライアントのガイド |
催眠誘導 | 一律的で固定された手順 | クライアントに合わせた柔軟な手順 |
無意識の扱い | 支配されるべき対象 | 自然で創造的な資源 |
治療目標 | 明確な催眠状態の達成 | 問題解決や変化の自然な促進 |
2. 具体例を用いた違い
古典派催眠とエリクソン療法における2つの事象に対しての関わり方の違いを比べてみます。
例:禁煙療法
◎古典催眠のアプローチ
古典催眠では、治療者がクライアントに対して直接的な暗示を与えます。
例えば、次のような手法が使われます:
深い催眠状態に誘導。
「あなたはもうタバコが嫌いになる」「タバコを吸いたいという欲求が完全に消える」という言語を使いながら、強い暗示を繰り返していきます。
この方法は権威的で、治療者が「問題を解決する力を持つ者」としてクライアントに影響を与えようとします。
◎エリクソン派催眠のアプローチ
エリクソン派では、クライアントの無意識の力を活用して、自然に変化を促します。
具体的には:
クライアントとのリラックスした会話を通じて、軽い催眠状態に誘導。
クライアントの過去の成功体験を引き出し、「自分で変化を作り出せる」という自己効力感を高める。
メタファー(比喩)を使って間接的に働きかける。
例えば、「ある人が毎朝新しい道を歩くことを決意し、習慣を変えることで新しい生活を見つけた」といったような話を必要に応じて聞かせたりする場合もあります。
このアプローチでは、クライアント自身が「タバコをやめたい」という決意を無意識に深めていきます。
例:不安症への対処
◎古典催眠のアプローチ
治療者はクライアントを深い催眠状態に誘導し、以下のような直接的な暗示を与えます:
「あなたはリラックスしていきます」「不安を感じる必要はありません」「心は穏やかになっていきます」。
この方法はシンプルで効果的に見える一方、クライアントの反発(暗示に抵抗する心)が起こる可能性があります。
◎エリクソン派催眠のアプローチ
エリクソン派では、より間接的で柔軟な方法を取ります:
例えば、状況に応じてクライアントが「リラックスする瞬間」や「安心感を感じた経験」を思い出すように促したりする場合があります。
その経験に基づいて、不安を感じたときにどう対応できるかを自然に考えさせます。
「ある鳥が嵐の中で安全な場所を見つけるように、人も困難の中で穏やかさを見つけられる」といったメタファーを使って、不安への対処法を暗示的に伝えたりすることもあります。
このプロセスでは、クライアントの無意識が自己解決の方法を発見するように導きます。
以上のように、エリクソン派の強みとしては、古典催眠が固定化された手順に従うのに対し、エリクソン派はクライアントごとに技法を調整する柔軟性があります。
また、強制的な暗示ではなく、無意識に気づかせることで抵抗を最小限に抑えるよう自然な変化を目指しますし、メタファーやユーモアを用いることで、療法が親しみやすく、クライアントがリラックスしやすい雰囲気を作ります。
古典催眠が「治療者の権威」を基にクライアントを操作する形で進むのに対し、エリクソン派催眠は「クライアントの自己治癒力」を重視し、柔軟かつ創造的に無意識に働きかけます。エリクソン派のアプローチは、単なる技法ではなく、クライアントの内面に寄り添い、変化を自然に引き出す哲学といえるでしょう。
2,エリクソン催眠療法に対する質問
エリクソンを深く理解するための催眠療法における質問をいくつか挙げてみましたのでご参考にしてみてください。
質問1:エリクソンの催眠療法における無意識の役割は、他の催眠療法や心理療法とどのように異なりますか?
エリクソン派の催眠療法における無意識の役割は、他の催眠療法や心理療法とは大きく異なります。
従来の催眠療法では、治療者がクライアントに直接的な指示を与えて、無意識を「操作」するようなアプローチを取ることが一般的です。しかし、エリクソンは無意識をクライアントの自然な力と見なし、その力を引き出すように働きかけます。無意識は問題解決のためにすでに十分なリソースを持っており、治療者の役割はそれをクライアントが活用できるようにする「ガイド役」であるという考え方です。
エリクソンのアプローチでは、無意識は「治療の重要なパートナー」として位置付けられており、治療者はクライアントの無意識の反応に柔軟に対応することで、自然な変化を促進します。エリクソンは無意識が本来持っている創造性や問題解決能力を重視しており、治療者がそのプロセスに寄り添うことで、クライアントは自身の力で変化をもたらすことができます。
質問2:解決志向アプローチの具体的な技法や手法を、どのような場面で使うと効果的か?
解決志向アプローチでは、問題の原因や過去に焦点を当てるのではなく、未来に向けた解決策に焦点を当てる技法を用います。このアプローチが効果的な場面は、クライアントが自分自身の問題を解決できる力を持っていることを信じている場合、またはクライアントが望む変化や目標を明確に描いている場合です。
具体的な技法としては、次のようなものがあります:
- リフレーミング:
問題の捉え方を変え、新たな視点から見ることで解決策が見えてくるようにする技法です。クライアントが抱えている問題を別の視点から見せることで、問題自体が小さく感じられたり、別の対処法が自然に見つかることがあります。 - リソース活用:
クライアントが既に持っている資源(強み、過去の成功体験、スキルなど)を強化し、それを使って現在の問題を乗り越える手助けをします。たとえば、過去に困難を乗り越えた経験を引き出し、その時に使ったリソースを現在の問題に応用させることができます。 - 未来のビジョンを描く:
クライアントが望む未来の状態を明確にイメージさせ、その状態に向かってどのように行動すれば良いかを導き出します。これにより、クライアントは解決策を具体化しやすくなり、自然と行動に移しやすくなります。
これらの技法は、クライアントが問題にとらわれ過ぎている場合や、既存の資源をうまく活用できていないと感じている場合に特に有効です。
質問3:エリクソンの柔軟なアプローチが、個別のクライアントの状況にどのように適応されるのか、具体例を挙げて説明してください
エリクソンのアプローチの柔軟性は、クライアントの状況や個性に応じて治療者が様々な技法や手法を自由に組み合わせる点にあります。エリクソンは、一つの固定された方法を押し付けるのではなく、クライアントごとの独自のニーズや目標に応じてアプローチを変化させました。
たとえば、不安を抱えているクライアントに対して、エリクソンは次のようなアプローチを取るかもしれません。
- クライアントA:
過去の失敗経験にとらわれ、不安を感じている場合は、リフレーミング技法を使って、その失敗経験を新たな学びとして捉え直すよう働きかけます。そして、過去の成功体験を思い出させ、それを今後のチャレンジにどう応用できるかを導きます。 - クライアントB:
将来への不安に圧倒されている場合は、解決志向の未来ビジョンを用いて、具体的に何を達成したいか、そのために何をすべきかを明確にします。さらに、達成可能な小さなステップを設定し、クライアントが現実的に行動できる道筋を示します。 - クライアントC:
無意識の創造性を活用しやすいクライアントには、よりリラックスした催眠誘導を行い、無意識に自由に問題解決を委ねる手法を用いるかもしれません。無意識にアプローチすることで、クライアントが自分では気づいていなかったリソースや解決策を引き出すことが可能になります。
これらの具体例からわかるように、エリクソンはクライアントのニーズや状況に応じてアプローチを柔軟に適用し、最も効果的な解決策を引き出すことを目指しています。
参考元:
solution‐oriented hypnosis : An Ericksonian approach
ミルトンエリクソンの催眠療法入門 金剛出版社
W・H・オハンロン (著), M・マーチン (著)
Hope & resiliency : understanding the psychotherapeutic strategies of Milton H. Erickson, MD
ミルトンエリクソン心理療法 : レジリエンスを育てる 春秋社
ダン・ショート (著), ベティ・アリス・エリクソン (著), ロキサンナ・エリクソン-クライン (著)