「最近、仕事にやる気が出なくて……」
部下からそう言われたとき、どう答えましたか。
「それはよくないよ」と言いかけて、止めた。「頑張ろう」と言っても響かない気がして、言葉を選んだ。でも、結局うまい言葉が見つからなかった。
部下のやる気が落ちていることは分かる。どうにかしたいとも思っている。でも、「叱咤激励」は逆効果だし、「気持ちは分かる」だけでは何も変わらない。
「やる気を引き出したい」のに、どう関わればいいか分からない。
この感覚を持っているリーダーは、少なくありません。
この記事では、NLPの「チャンクアップ」という問いかけの技術を使って、部下の視座を静かに上げるアプローチを整理していきます。
「モチベーションを上げる方法」という表面的な話ではなく、「なぜやる気が落ちるのか」という構造の理解と、そこへのアプローチの話です。
「やる気を出させよう」とすることが、逆効果になる理由
部下のやる気が落ちているとき、多くの上司がやりがちなアプローチがあります。
- 「もっと積極的にいこう」と背中を押す
- 「この仕事はこれだけ重要なんだ」と説明する
- 「こういうときこそ頑張りどきだよ」と励ます
これらは、善意から来ています。でも、受け取る側には別のメッセージが届くことがあります。
「今の自分ではダメだ」「もっとこうならなければいけない」という圧力として。
たとえば、こんな場面を想像してみてください。
田中さんは、最近どうも業務に気持ちが入らなくて、上司に正直に話しました。
「実は、仕事にやる気が出なくて……」
上司は「そうか。でもこのプロジェクト、チームにとってすごく大事なんだよ。田中さんにも頑張ってほしいんだよな」と言いました。
田中さんは「はい、分かりました」と答えました。
でも、席に戻るとき、少し重くなっていました。「分かってる、でもやる気が出ないんだよ……」という感覚が、むしろ強くなっていました。
このとき、何が起きていたのでしょうか。
上司は「仕事の重要性」を伝えました。それは正しい情報です。
でも、田中さんにとって問題だったのは「仕事が重要かどうか」ではなく、「自分がなぜ今、やる気を出せないのか」という内側の問いでした。
「重要性を伝える」は上から外から押し込む方向です。でも、やる気は内側から生まれます。
押し込む方向の言葉は、むしろ内側を閉じさせることがあります。
やる気が落ちる「構造」の話—問題は「目の前」に固定されているとき
「やる気が出ない」という状態には、特定の構造があります。
これは性格の問題でも、努力の問題でもありません。
「視点が、目の前の業務だけに固定されている状態」で起きやすいのです。
① 「チャンクダウン」状態に陥っている
NLPには「チャンク」という概念があります。
チャンクとは、情報の「まとまりの大きさ」のことです。
- 大きなチャンク(上位概念):「自分はなんのために働いているか」「このチームの存在意義は何か」
- 小さなチャンク(下位概念):「今日の資料を仕上げること」「あの件の返信をすること」
やる気が落ちているとき、多くの人は「小さなチャンク」だけに視点が固定されています。
「今日もあれをやらなければ」「またあの会議がある」「またあの人と話さなければ」——目の前のタスクが積み重なって、「何のためにやっているのか」が見えなくなっています。
これを「チャンクダウン状態」と呼ぶとしたら、その反対、つまり「上位の意味へ視点を移動すること」がチャンクアップです。

② 「意味の喪失」がエネルギーを奪う
人間は、意味を感じられない行動を続けることが、とても難しいです。
「なぜこれをやっているのか」「これは誰かの役に立っているのか」「自分はここにいていいのか」——これらの問いに答えが見えなくなったとき、行動へのエネルギーが枯渇していきます。
これは「怠け」や「根性不足」ではなく、「意味の喪失」という心理的な現象です。
真面目な人ほど、目の前の仕事を確実にこなし続けるため、気づかないうちに「意味を感じる余裕」がなくなっていくことがあります。

③ 「現在地の霧」が広がっている
やる気が落ちているとき、こんな感覚を持っていることがあります。
- 「自分がここにいる意味が分からない」
- 「何に向かっているのかが見えない」
- 「頑張ったとして、その先に何があるのかイメージできない」
これは将来への不安というより、「今の自分の仕事が何につながっているか」という「現在地の霧」です。
この霧を晴らすのが、チャンクアップの問いかけです。
「チャンクアップ」とは何か—視座を上げる問いの使い方
チャンクアップとは、「この仕事の上位にある意味や目的を探る問いかけ」です。
「なんのために?」「それが実現すると、誰が嬉しいの?」「その仕事を通して、あなたが大切にしたいことは?」
こういった問いを、責めるのではなく、一緒に探るように投げかけます。
先ほどの田中さんの場面を、チャンクアップ的に展開するとこうなります。
「最近、仕事にやる気が出なくて……」
「そうか、そういう感覚、話してくれてよかった。少し聞いていいかな。今の業務の中で、これはやっていてよかったと思える場面って、何かある?」
「……そうですね、お客さんに直接お礼を言われたときは、少し嬉しかったです」
「そういう瞬間があるんだね。そのとき、どんな気持ちだった?」
「なんか、この仕事してよかったな、って。でもそれって、日々の業務の中ではなかなか感じられなくて……」
「そうか。そのやってよかった感覚が、今は見えにくくなっているのかな。その感覚が戻ってきたら、何が変わりそう?」
この会話に、「頑張れ」という言葉は一つも出てきません。
でも田中さんは、自分の言葉で「自分が大切にしていること」に触れ始めています。
チャンクアップの問いは、「上位の意味を押し込む」のではなく、「本人が自分の中にある意味を見つけるための問い」です。
見つけるのは田中さん自身です。上司はその「道案内」をしているだけです。
チャンクアップの問いかけの基本パターン
すぐに使えるパターンをいくつか挙げます。
「何のために」系
- 「この仕事、最終的には誰の役に立っているんだろう?」
- 「これが実現したら、何が嬉しいと思う?」
「大切にしていること」系
- 「仕事をしていて、これは大事だと感じることってある?」
- 「うまくいったとき、何が嬉しかった?」
「つながり」系
- 「今やっていることが、あなたのどんな強みと関係していると思う?」
- 「このチームにいることで、あなたが得たいものって何かな?」
これらは「詰める質問」ではありません。「一緒に探る問い」です。
答えを求めるのではなく、部下が自分の内側を見始めるための「入口」を開ける問いかけです。
部下の言葉を聴く前に、自分の「心の現在地」を整える2つの内省
チャンクアップの問いを使う前に、まず自分のパターンを確認してみてください。
もしそうなら、「上から押すか、理由を求める」という二択になっていることが多いです。
次回、「最近、どんな場面でやっていてよかったと感じた?」という形の問いを試してみてください。
リーダー自身が「意味を感じられていない状態」にあると、チャンクアップの問いはなかなか自然には出てきません。
自分がチャンクダウン状態にないかを確認することが、部下への関わり方の前提として大切です。
「部下の内側にあるものを引き出す聴き方」を、もう少し体系的に整理したい人へ
チャンクアップの問いは、「聴く土台」ができていて初めて機能します。
部下が安心して自分の感覚を話せる場がないと、どんな問いも「答えなければならない質問」になってしまいます。
「信頼される聴き方」「部下の内側に触れる問いの持ち方」「1on1を意味のある場にする設計」——それらを体系的に整理した記事をこのサイトで用意しています。
部下との関わり方をもう少し根本から見直したい方に、ぜひ読んでみてほしい内容です。
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