なんでこうなるんだろう、と思ったことはないでしょうか。
頼まれたら断れない。 困っている人がいれば、自然と手が動く。 誰かがミスをしても、「まあ、いいか」と自分が引き取ってしまう。
そうやって動いてきたのに、評価されるのは別の人だったりする。 「あの人、要領がいいよね」と言われている人が、同じかそれ以上の評価を得ている。
おかしいとは思う。 でも「要領よく立ち回れ」と言われても、そうできない自分がいる。
このしんどさは、「あなたの性格の問題」ではありません。 職場という場所が持っている、構造的な偏りによって生まれています。
この記事では、なぜ「いい人」が損をしやすいのかを、責める言葉なしに整理していきます。
「もっと要領よくすればいい」という助言が、なぜ届かないか
「損したくないなら断ることを覚えればいい」
こういうアドバイスを一度は受けたことがあるかもしれません。 あるいは、自分自身に言い聞かせたことがある。
でも、うまくいかなかった。
それは意志が弱いからではなく、断るという行為が、あなたにとって単なる「選択」ではないからです。
たとえば、誰かに「これ、できる?」と聞かれたとき。
多くの人は「できるかできないか」だけを考えます。 でもあなたは同時に、相手の状況・断ったときの空気・その後の関係性・自分がいなかったら誰がやるのか——を、ほぼ無意識のうちに考えています。
その処理が終わった時点で、もう断れなくなっている。
「要領よくしろ」という言葉は、この処理そのものを「やめろ」と言っているに等しい。 あなたがこれまで培ってきた、周囲への配慮と感知能力を、否定する話です。
だからその助言は、届かない。届かなくて当然です。
「いい人が損をする」のは、職場という場所の設計の問題
職場には、暗黙のルールがあります。
それは文書に書かれていることではなく、「誰がどのように動くと、組織が回るか」という力学です。
この力学の中に、ひとつの傾向があります。
「断らない人には、仕事が集まる」
これは当然のことでもあります。断らない人に頼めば、確実に処理される。そちらに依頼が流れるのは、組織の効率という観点からは、合理的な動きです。
問題は、仕事量と評価が、必ずしも比例しないという点です。
多くの職場では、評価されやすいのは「目立つ成果を出した人」「声が大きい人」「上に好かれている人」です。
あなたがこなしてきた仕事——引き取った誰かのミスのカバー、誰もやらなかった地味な調整、場の空気を読んだ無言のフォロー——は、評価軸のどこにも入っていないことが多い。
それはあなたの仕事が価値がないのではなく、その職場の評価設計が、あなたの仕事を見えにくくしているだけです。
同じタイプの人が、同じような職場で同じように消耗するのは、個人の弱さではなく、この構造に踏み込んでしまっているからです。

「断れないこと」は欠点ではなく、使いどころの問題かもしれない
ここで少しだけ、視点を変えてみます。
断れない、気を遣いすぎる、引き取ってしまう——これらは、ある状況では「組織を静かに支える能力」として機能しています。
リーダーではないのに、チームの空気を安定させている人。 大きな声を出さないのに、なぜか周りから信頼されている人。 そういう人の多くが、この「いい人」タイプです。
ただ、その能力が正しく認識されない場所にいる限り、消耗だけが積み重なります。
大切なのは、「断れるようになること」ではなく、 「自分の能力がどんな場所で活きるか」を知ることかもしれません。
今すぐ何かを変えなくていい。 ただ、「この場所でこれを続けていれば、報われる」という前提が、本当に正しいかどうか——それだけを、静かに問い直してみてください。
“誰かのため”と”自分のすり減り”を分けてみる
行動を変えることより先に、少しだけ認識を整理してみましょう。
問い①:今週、あなたが引き取った仕事の中で「本来は誰の仕事だったか」を1つだけ思い出せますか?
それが悪いことだとか、損だとか判断しなくていいです。 ただ、「あ、これは本来Aさんの仕事だったな」と認識するだけ。
認識することは、変えることではありません。 でも認識しないままでいると、すり減りが「自分の普通」になっていきます。
問い②:今の職場で、あなたが「頑張れば報われる」と思えている場面は、どれくらいありますか?
「ない」と感じたとしても、それはあなたの努力不足の証拠ではない。 構造的に見えにくい場所にいる、というだけかもしれない。
この問いに答えることで何かが解決するわけではありませんが、自分の現在地を、少し客観的に見るための足がかりになります。

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「いい人が損をする」という感覚の背景には、断れない心理・軽く扱われるパターン・評価されにくい構造など、複数の要素が絡み合っています。
それをもう少し丁寧にほどいて、自分の状態と照らし合わせてみたい方へ。


